SF・ミステリーに熱中、国際社会を読み解く助けに国際通貨研究所 渡辺博史理事長

たられば、を容認するのが歴史SF小説です。『モンゴルの残光』は成吉思汗が築いた帝国が東欧で引き返さずに欧州全土を征服。「三度目の正直」で日本も占領する設定です。白人ではなく黄色人種がユーラシア大陸を支配する。追い詰められた日本人が新大陸へこぎ出し、西海岸から“東部劇”を展開する。あり得たかも?と思わせるスケールの大きさが魅力です。

ミステリーとは趣が異なりますが、冷戦下に書かれた『紛争の一般理論』は、紛争解決の手段や手法を体系的に分析した研究書です。こっちがこう出たら相手はこう動く。推理や探偵小説の要素が含まれているのです。各国の利害が複雑に交錯する国際金融に携わっていたときに読み返し、交渉に臨む座標軸の一つになりました。

司法試験も通ったが、幅広い仕事ができそうな大蔵省へ。在職中にミステリーガイドも執筆した。

役人が忙しいのは事実。大型の税法なんかを通そうとなると、夜明け前に帰宅するのが目標です。でも野党の質問を延々と待ち続ける国会待機は、発想次第で格好の読書の時間に転じます。88年の消費税国会の際は旧ソ連のモスクワを舞台にした警察小説の名作『ゴーリキー・パーク』など一気に読書量が増えました。ミステリーはどこに伏線が潜んでいるか分からない。経済書などと違い斜め読みができません。

ミステリーは国の文化や社会経済、歴史環境を端的に映し、解き明かしてくれます。例えば西村京太郎さんの時刻表トリックが成立するのは、鉄道が正確に運行される日本ならではです。

国際理解の一助になるのでは。そんな思いから国際関連の仕事が増えてきた93年、海外ミステリーのガイドブックを出版しました。副題は「開発途上国ミステリ案内」。100あまりの途上国・地域を舞台にしたミステリー本、626冊を紹介しました。

多少評判になり桂文珍さんのラジオ番組に呼ばれ「税法いじっているあんたがミステリーの解説本なんて、なにやっとんの?」と突っ込まれました。「脳みそを税法のときには右回りにネジを巻き、ミステリーでは左回りに巻き戻してバランスさせています」と言い訳しました。

20年来、出版社の依頼でミステリー本の選者を請け負っています。昨年も『それまでの明日』など秀作が登場しました。ミステリー探訪は続きそうです。

(聞き手は編集委員 佐藤大和)

[日本経済新聞朝刊2019年1月19日付]

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