松田氏は長崎県出身。大学卒業後、リクルートの九州支社で旅行雑誌「じゃらん」の編集に携わった。その後メディアファクトリー(当時)へ転職し、書籍編集者に。手掛けた「ダーリンは外国人」は、シリーズ累計300万部を売る大ヒット作になった。業界で松田氏は、作者が個人的な経験や思いを漫画でつづる「コミックエッセー」という新ジャンルを打ち立てたことで知られる。
ただ就任当時は、雑誌の編集長経験も、レタスクラブの編集経験もゼロ。紙の雑誌では、編集部メンバーとして経験を積み、デスクや副編集長を経て編集長に就任するというのが通例とされるルートだ。松田氏の抜てきは「誰も予想しなかった人事」だった。
いわば完全な「よそ者」状態。でも、よそ者であったからこそ気づいたことがあった。
「ざっと雑誌をめくった第一印象は『カタログみたいだな』ということでした。真面目で、優等生。『こうしなければならない』という教科書のようで、ちゃめっ気や遊び心が足りないと感じました」
「誌面に熱がない」
松田氏自身、1児の母。毎日の食卓には手料理以外に、スーパーマーケットの総菜を並べる日もある。レトルト食品だって、大活躍だ。でも、そんな現実は入り込む余地がない誌面だった。
「“人の熱”が感じられないな、という印象を強く持った」
就任に当たり、会社から与えられていたミッションは「コミックエッセーの知見を生かしてレタスクラブを変えてほしい」というものだった。コミックエッセーのジャンルは、「共感」が勝負だ。ベテラン作家も、無名作家もいわばスタートラインは同じ。「読者の心のひだに入り込めた方が、売れる」。編集者としてその世界で15年以上格闘してきた松田氏が、当時の誌面から「熱のなさ」を感じ取ったのは、「共感」のプロとしての嗅覚のようなものだったのかもしれない。
とはいえ、同誌の編集者もベテランぞろい。畑違いの松田氏の「感想」がすぐに受け入れられるはずもなかった。
「共感を生む仕掛けの一つとして、今はレタスクラブでもコミックエッセーを連載しています。ただ、当初は漫画なんか入れてくれるな、という声もありました。私が逆の立場でも、大切に育ててきた媒体を横取りされるような気持ちになると思います。当然です」
そこで、読者の声をもう一度徹底的に「聞く」ことにした。まずは、多忙な編集現場でほぼ行われなくなっていた、読者へのヒアリングを復活させた。協力者の家を訪問し、食卓や収納の様子など「ありのまま」の姿を撮影する。朝起きて、寝るまでの1日のスケジュールを事細かに聞き取る。同誌を読んだことがない層にも、雑誌を送って意見を聞いた。