実際、誌面と読者層の現実には隔たりが生じていることが分かった。働く母親に限らず、専業主婦であっても「買い物に行く時間を確保するのがやっと」という状態だった。

貫いた「読者目線」

温かみのある誌面づくりを心がけている

「1日のほとんどが、子どもの送り迎えに費やされていました。保育園だけでなく、今は通わせる習い事も増えている。母親は、子どものマネジャーみたいな感じです。買い物は予定と予定のあいだの、スキマ時間に済ませているのが現状。従来の誌面では食卓に4品並んでいるのがデフォルトのイメージでしたが、それは無理だ、という結論になりました」

こだわったのは一人ひとりとの対話。ここにもコミックエッセーでの経験が光る。エッセーは主人公が作者自身であることも多く、編集者はその人生に寄り添うことを求められる。

「腹を割ってもらうために手を尽くすのが仕事。本人が平凡だと思っている毎日の中にも、他の人の心を揺さぶる『ネタ』が必ずあると思っているんです。作者自身が気づかなくても、こちらからテーマを投げ掛けることで引き出せる場合もある」

生々しい「日常」に迫ることへのこだわりが、雑誌編集にも生かされた。30代、既婚、料理好き――。そんな不特定多数に当てはまる属性ではとらえきれない、読者の「素顔」が見えてきた。

松田氏は、読者層の30~40代の女性は「自己肯定感が低い傾向にある」とも指摘する。仕事も、家事も、子育ても……。ともすれば完璧を求め過ぎて「できていない自分」を卑下してしまう。「真面目で一生懸命」な読者の質自体は変わっていないが、彼女たちを取り巻く環境も、生き方も変わった。その中で読者は、板挟みになっているのではないかと感じた。

雑誌がなくてもレシピが見られる時代に

レシピを考案する料理家に聞いてみると「この工程を省いても意外と味は変わらない」という反応も多かった。伝統的に同誌では、レシピはすべてアシスタントが実際に調理し、試食した上で掲載する。読者は安心して楽ができる、というわけだ。

「もちろん『これを求めていた!』という読者がいる一方で、そうではないという読者もいると思います。そこは常に声を聞きながら、これからのあり方を考えていきたい」

雑誌がなくても、インターネット上でいくらでもレシピが見られる時代。貫きたいのは「温かみ」のある誌面作りだ。

「『つらいよね』とか『うまくできないんだよね』とか、ネガティブな本音も含めて共有し合えるコミュニティーをつくっていきたい。読者を助ける友人のような雑誌でありたいですね」

松田紀子
1973年生まれ。大学卒業後、リクルートで「じゃらん九州」の編集に携わる。2000年、メディアファクトリーに入社し、小栗左多里氏、たかぎなおこ氏などの担当編集者として活躍。コミックエッセーのジャンルを確立する。11年からコミックエッセイ編集グループ編集長。16年より「レタスクラブ」編集長も兼務。18年より「東京ウォーカー」編集部長も務める。

(ライター 加藤藍子)

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