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立川談笑、らくご「虎の穴」

打たれても続けた野球と正月がすがすがしいワケ 立川吉笑

2019/1/6

ちゃんと数えたことはないので「体感」だけど、僕の野球歴の通算成績は85勝500敗くらいのイメージ。小学生時代に勝ち星を稼いだだけで、中高では圧倒的に負け越している。こんなに負けたのに野球を辞めなかった理由は、1試合ごと、1打席ごと(究極的には1球ごと)に気持ちをリセットできる快感があったからだと思う。

当たり前だけど、勝敗は試合ごとに決まる。失点に失点を重ねて2対14みたいな悲しいスコアになっても、あるところまでイニングが進めばゲームセットとなる。すると黒星が1つ増える代わりに、スコアは綺麗にリセットされる。投球カウントも打席ごとにゼロに戻る。したがって、次の試合、次の打席はまっさらな夢のような状態で始めることができるのだ。

負けた次の試合で打ち込まれ、たとえ1対19になったとしても、ゲームセットまで耐え切ればスコアはリセットされる。そしてまた次の試合も、希望に満ちあふれた0対0の状態でプレーボールになるのだ。

もしも「リセット」がなかったら

もし得点差がリセットされなかったらどうなるか。上の2試合が終わった時点で通算スコアはすでに3対33。そこから7対52、10対70、50対411、100対831と、どんどん差がついていったら、さすがに試合へ向かう気力が失せる。731点差をどうやってひっくり返せばいいのか。

自分に都合がいいリセット感を生み出すのも悪くない。シーズンでみれば、春は1勝7敗だったとしても、夏は気持ちを新たに0勝0敗から始まると考えることもできる。まさに心機一転だ。

思えば年が変わる瞬間というのも心機一転にはもってこいだ。12月31日の自分と1月1日の自分にほとんど差なんてないとわかっている。それでも「1年」という恣意的な区切りを設けることで、なんだか新しい自分が始まっていくような、そんな気がするのだ。

どれだけ昨日までの日々が敗戦続きだったとしても、年が変わったその日から、また新たな気持ちで毎日と向き合うことができる。となると、区切る瞬間を例えば1年単位じゃなくて1カ月単位にしてみてはどうか。さらに1週間単位にしたらどうだろうか。

せめて良くないことに巻き込まれた時だけでも、そうやって区切る間隔を短くしてやることができれば後を引くことなく気持ちを切り替えることができるのではないか。

新年明けましておめでとうございます。お正月がすがすがしいのは、それまでの嫌なことが一瞬でチャラになった気がするからかもしれない。非力ながら、次の試合、次の打者、次の1球こそはと投げ続けた僕が、野球で感じたものとちょっと似ている。高座のマクラでは内角ギリギリを攻めることもおぼえた元球児は、2019年も「今年こそは」と思いながらお雑煮を食べている。

立川吉笑

本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)

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