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池上彰の大岡山通信

冷戦終結30年 歴史に学び未来を開く 池上彰の大岡山通信 若者たちへ

2019/1/7

2019年、日本では「平成」というひとつの時代が終わります。世界に目を向ければアメリカとソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が鋭く対峙した東西冷戦の終結から30年の節目を迎えます。「混沌とする世界はどこに向かおうとしているのか」。未来を読み解く鍵は歴史にあります。一緒に考えてみましょう。

歴史的会談に臨んだ米ソ首脳

1989年12月、マルタで共同記者会見したブッシュ米大統領(左)とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長=AP

18年12月、米ワシントンで第41代の大統領を務めたジョージ・H・W・ブッシュ氏の葬儀がありました。歴代の大統領経験者が参列しました。

ブッシュ氏は第2次世界大戦で対日戦に従軍。搭乗していた軍用機が日本軍によって撃墜され、九死に一生を得ました。戦後は国交を回復する前の中国で北京駐在の連絡事務所長、米中央情報局(CIA)長官などを歴任してきたのです。

思い出深いのは、1989年12月、ミハイル・ゴルバチョフ・ソ連最高会議議長(共産党書記長)との首脳会談でした。米ソは世界を分断し続けてきた東西冷戦の終結を宣言したのです。まさに歴史に刻まれた一ページです。

第2次大戦後、世界は資本主義陣営と社会主義陣営に分断されてきました。核兵器の破壊力がもたらす恐怖が“平和”を創り出すという異常な時代でした。社会主義経済の行き詰まりや、膨大な軍事費の重荷が、両陣営を歩み寄らせることになったのです。「世界は平和になる」。人々は期待を膨らませました。

あれから約30年。世界はいま、大国間の新たな対立が生まれ、戦争のない世界を目指してきた試みは重大な岐路に立っています。

たとえばアメリカです。トランプ大統領が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、中国との新たな緊張関係が深まっています。関税を巡る貿易交渉にとどまらず、IT(情報技術)産業を巡る確執など、様々な分野での対立が世界の政治経済の新たな火種になってきました。

米中、緊張拡大の恐れも

2018年12月、ブエノスアイレスで、中国の習近平国家主席(左端)との会談に臨むトランプ米大統領(右端)=AP

とりわけ18年10月のペンス米副大統領による講演は衝撃的でした。経済大国となった中国への容赦ない対抗心をむき出しにしたからです。アジア地域でも、中国との緊張関係は南シナ海から太平洋へと拡大していくかもしれません。

欧州諸国は難民・移民問題に揺れています。ドイツのメルケル首相は18年秋、難民政策を巡って国内の反対派と対立。党首を辞任し、21年の総選挙には立候補しないで引退すると宣言しました。ドイツは第2次大戦の反省から海外から多くの人々を受け入れましたが、その寛容さが失われつつあります。

フランスでは革命以来の精神でもある「自由・平等・博愛」が揺らいでいます。同時多発テロが発生し、国民の世論は「イスラム圏からの移民受け入れ反対」に傾いています。移民大国はイスラム教に恐怖感すら抱いているのです。

欧州連合(EU)は「ひとつの欧州」を目指し、労働者が国境を越えて働くことを可能にしました。イギリスがEU離脱を決断した背景には、EU圏の労働者が大量に流れ込んだことで「仕事が奪われた」という不満がありました。EUの一員であることのメリットよりも、デメリットが大きいと判断したのです。

冷戦後の世界で注目しておきたいのが民族と宗教の存在でしょう。旧ユーゴスラビア紛争は民族対立という亡霊を復活させました。「アラブの春」はシリア内戦へとつながり、欧州を目指す多くの難民を生みました。

いけがみ・あきら 東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)、「池上彰の18歳からの教養講座」(同)、「池上彰の世界はどこに向かうのか」(同)、新著「池上彰の未来を拓く君たちへ」(同)。長野県出身。68歳。

アメリカ、中国、ロシアの大国の覇権争いは、世界が「新しい冷戦」の時代に入ったことを印象づけました。日本は好むと好まざるとにかかわらず、大国の利害を巡る攻防に巻き込まれることを覚悟しておく必要があります。

高校生や大学生にとって歴史は教科書にある年表の出来事かもしれません。でも、歴史は人間が同じ過ちを繰り返すことを教えてくれます。その一方で先人の英知をたどれば、対立や危機を乗り越える道が開けるかもしれません。自分なりの視点を持ち、時代を読み解く力を養っておくことが大切です。

日々のニュースを常に歴史の中に位置づけて考える。今年からそんな努力をお勧めします。

[日経電子版2019年1月7日付]

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