スパコンの性能が日本の国際競争力を左右する面があるのも確かです。理化学研究所と富士通は「京」の後継となる「ポスト京」を開発中で、21年にも運用を始める予定です。計算能力は1秒間に100京回と「京」の100倍です。「創薬、天候予測、宇宙の根源の研究といった、『京』では処理能力が足りない研究課題が数多く出てきている」と加藤教授は言います。「ポスト京」を役立つスパコンに育てられるかどうか、日本の総合力が問われています。

加藤千幸・東大教授「科学的に重要な課題の解決がスパコン開発の使命」

国家プロジェクトであるスーパーコンピューターの開発は、日本の競争力に影響を及ぼします。研究者としてスパコンを利用し、政府に開発・設計の方法を助言してきた東京大学生産技術研究所の加藤千幸教授に、日本のスパコンに何を期待するのかを聞きました。

――世界のスパコン競争の現状は。

「世界の『TOP500』で2011年に日本の『京』が1位になった後、しばらく中国が1位でしたが、18年6月に米国が首位を奪還しました。スパコンの開発競争は日米中が中心で、欧州は利用者に徹している印象です。ただ、競争に参加すること自体が目的ではありません。例えば災害を予測して減らすという目的がまずあり、日本はその目的を達成するために、スパコン本体や、アプリケーションソフトの開発を進めています」

――旧民主党政権が2009年に実施した「事業仕分け」でスパコン開発に巨額の投資をする意味があるのか問われました。

「事業仕分けを機に、それまでの『次世代スーパーコンピューティング技術の推進』という呼び名を『ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築』に改めました。理化学研究所のスパコンと大学や研究機関の大型計算機をネットワークでつなぎ、多くの人が使いやすい環境にしようという考え方に変わったのです。開発者重視から利用者重視へと意識改革が進むきっかけになり、よかったと思います。2012年にはスパコンの利用を促す組織としてHPCIコンソーシアムという一般社団法人が発足しました」

――スパコンの利用を増やすには何が必要ですか。

「利用者はスキルがないとスパコンを使いこなせません。スパコンの利用者を開拓し、スキルアップをしないと利用は増えません。産業用スパコンを運用する公益財団法人、計算科学振興財団(神戸市)は、利用者の裾野を広げる役割を担う組織の一つといえます」

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