採用担当者を納得させるエントリーシートとは
ホンネの就活ツッコミ論(51)
今回のテーマは「エントリーシート講座・上級編」です。48回目での初級編、前回の50回目で中級編を掲載。今回はその続きです。以下、コピペ(コピー&ペイスト)。なお、初級編を読んでいないという方、お願いですから読んでください。初級編に挙げた4点は私がこれまでに添削した学生(年間で200人から300人)のうち、90%が引っ掛かっています。これを直せば楽勝とまでは言いませんが、大きくは変わるはず(以上、コピペ終わり)。
今回は上級編ということで「部外者にわかりやすい表現」「社会人との接点」「好きなことより嫌いなこと」の3点について解説します。
数字よりもわかりやすい言葉を探せ
エントリーシートの対策本には、よく「わかりやすくするために筋を出そう」と書かれています。内定学生のエントリーシートにもよく数字が出ているせいか、就活生はエントリーシートでやたらと数字を使いたがります。
例1は数字なしのエントリーシート。例2は数字を出したエントリーシートです。「数字を出せばわかりやくなる」、それはその通りです。ただし、その数字の意味を書き手・読み手双方とも理解している、という条件付きです。例2は一見すると数字が出てわかりやすくなっています。しかし、「200人いる陸上部」「約200チームが参加する大会」「10キロ減量」「2位」この4点の数字から部外者が読み取れるか、というと読み取れません。
書き手である就活生は数字の持つ意味を理解しています。が、読み手の大半は数字の持つ意味を理解していません。ごくまれにいるかもしれませんが、それは宝くじが当たるよりも低い確率と見た方がいいでしょう。つまり、「数字の持つ意味を読み手・書き手双方が理解している」という条件を満たしていない以上、数字を出しても読みやすくも何ともならないのです。
心なしか、体育会系の学生やよさこいサークル、音楽系サークルに大学祭実行委員会の学生ほど数字を出したがります。それも部外者にとっては理解できない数字を。しかも中級編で解説した「派手な短期の成果より地味でも長期の経過ネタを」にある通り、成果・実績を書きたがります。そこに数字が加わるので結果として自己満足なエントリーシートになってしまうのです。
では、どうするか。例1の学生だと、10キロ減量するために、鶏ささみ肉を1枚、毎食食べ続けたそうです。という話をまとめたのが、こちら。
例3に数字は出ていません。「鶏ささみ肉を1枚」くらいですか。代わりに長く書いているのは、地味な経過です。この学生だと減量のために鶏ささみ肉を食べ続けた、というあたりですね。地味と言えば地味ですし、体育会系学生で減量のためにはこれくらい、やっている学生はいくらでもいるでしょう。
でも、実はこうした地味な経過こそ企業が知りたいところ。しかも、「10キロ減量」と書くよりも「減量のために鶏ささみ肉を食べ続けた」という方がはるかにわかりやすいのです。
社会人・学外との接点があれば書こう
国公立大・難関私大で家庭教師・塾講師のアルバイトをしている学生はほぼこのパターンです。手作りの参考書でなければ、「親身の指導」とか。飲食・コンビニのアルバイトネタが「ありきたり」としてよく批判されます。実際には店舗での働き方、学生の努力などで個人差があります。そのため、書き方次第ではいくらでも変えられます。
その点、家庭教師・塾講師だと、どうしても書き方が限定されてしまいます。生徒が優秀だったので見守っているだけでどうにかなった、ということもあります。では、家庭教師・塾講師ネタがダメか、と言えばそんなことありません。どう変えればいいのか、その一例がこちら。
生徒への指導ネタから、保護者からのクレーム対応ネタに変えるのです。このパターンだと、採用担当者からすれば「社会人とのコミュニケーション能力がどの程度あるか」を読み取ることができます。その点、生徒・児童への指導だと、教育指導能力の有無がわかるだけで、それ以上のことはわかりません。家庭教師・塾講師以外でも、社会人との接点があるようなら書き出していくといいでしょう。もし、社会人との接点がなければ、学外の学生との接点を探してみるのもいいでしょう。
好きなことより嫌いなことを
好きなことや趣味をネタとする学生も結構います。確かに学生からすれば書きやすいでしょう。しかし、好きなこと・趣味を書くだけだと、「好きだから頑張ったんだ。だったら嫌いなことを仕事にはしたくないのか」と誤解されてしまいます。どうしても、好きなこと・趣味をネタにするのであれば誤解されない工夫が必要です。
好きなこと・趣味を書くよりも、実は嫌いなことを書いてみると、意外といい内容になります。
嫌いなこと、苦手なことを書く、という戦略を取る学生は意外といません。嫌い・苦手をあえて続けた、という内容は企業からすれば興味あるところです。
共通項は「見込み」で納得できるかどうか
さて、今回の上級編3項目だけでなく、中級編でも出した内容は、それぞれ共通項があります。すなわち、採用担当者が納得できるかどうか。そして、その納得できるかどうかは「見込み」です。頑張ってくれそう、長く働いてくれそう、地味な作業をしてくれそう、会社を大きくしてくれそう、一緒に働けそう...。
学生によって「●●しそう」の「●●」は内容が変わります。どの内容にしろ、見込みがあるかどうか、それが知りたいのです。その見込みが立つかどうかが、わかる内容をエントリーシートに書いていれば、次の先行に呼ぼうか、となります。逆にわからなければ、落とそう、となりかねません。
日本の企業は新卒採用で実績、つまり、スキルを重視しません。新卒採用でスキルを重視するのは欧米ないし韓国においてです。「見込み」(ポテンシャル)を重視する以上、エントリーシートも「見込み」がわかる書き方をしてみてください。そうすれば、次の選考に呼ばれる可能性が高くなるに違いありません。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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