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高給だと思って喜んでいたら…残業代のカラクリを知ろう ブラック企業との向き合い方(2)

上西充子 法政大学キャリアデザイン学部教授

2016/4/11

応募している企業の募集要項に記載された労働条件を確認し、プリントアウトして保存しておくことを前回、お勧めしました。募集要項を見比べて、何か気づいたことはあったでしょうか? わかりにくい記載内容については、調べてみたり、誰かに相談したりしてみましたか? 今回は固定残業代や裁量労働制、年俸制といった特殊な仕組みを理解するための前提として、労働時間と給与、残業代の関係を考えます。

高給の影に残業代が潜んでいる?

皆さんが応募している企業の中で、初任給が25万円とか30万円とか、一般的な額よりもかなり高いケースはあったでしょうか。なぜそんなに高いのでしょう?

「事業が好調だから?」――。けれども事業が好調でも、初任給は20万~21万円ほどの水準の企業が大半です。「高い能力を求めているから?」――。初任給21万円程度の企業が求めている能力水準に比べ、本当にそんなに高い能力を求めているでしょうか。「人が集まりにくいから?」――。でも、高給を支払った新人が戦力にならないうちにすぐに辞めてしまったら、企業は大損になるはずです。

合理的な説明が思いつかないのに初任給があまりに高額なら、「もしかして、残業代が含まれているのではないか?」と考えてみてください。実際、そういうケースは多くあります。

例えばこういう記載があると、初任給に残業代が含まれていると考えられます。

【初任給】
大卒25万円
※月30時間を超えた時間外労働には、別途手当あり

「初任給が25万円と高いし、さらに別に手当も出るらしい!」と喜んでしまいがちですが、注意しましょう。別途の手当は「月30時間を超えた時間外労働」に対して出ると書かれてあるのです。

労働時間と給与、残業代の関係を考えよう(撮影協力:東京理科大学)

では1カ月30時間までの時間外労働(残業)に対してはどうなっているのでしょう。そう、初任給25万円の中に含まれているということです(こういう仕組みは「固定残業代」と呼ばれています)。月30時間分の残業代を除外すると、初任給は25万円よりかなり低くなります。

月30時間の残業代込みで25万円、さてこの労働条件をどう判断すればよいでしょう? 判断するためには、まずは労働時間と給与、残業代の関係を理解する必要があります。本来であれば残業代は、残業の時間数に応じて、初任給とは別に支払われるものなのです。

正社員なんだから、残業も仕方ない?

皆さんは「正社員なんだから、残業も覚悟しなくちゃいけないだろうな」と思っているかもしれません。けれども労働基準法によれば本来、1日8時間、週40時間を超えては「労働させてはならない」ことになっています。

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

「......じゃあ、残業って全部、違法なの?」――。実はそうでもありません。過半数組合(労働者の過半数で組織する労働組合)または過半数代表者(労働者の過半数を代表する者)と書面による協定を行い、それを届け出た場合には、その協定の範囲内で時間外労働(残業や休日出勤)を求めることができます。労働基準法第36条に規定があるため、この協定は36協定(サンロク協定・サブロク協定)と呼ばれています。

残業については、36協定がカギを握る

では36協定を結べば、使用者はどんな長時間労働も命じることができるのでしょうか。36協定を結ぶことによって可能となる残業時間については、厚生労働省告示で上限が定められており、月あたり45時間、1年間では360時間です。1年間の上限が45時間×12か月=540時間ではないのは、繁忙期は月45時間になってもやむを得ないけれど、年間を通しては1カ月あたり30時間以内に抑えなさいね、ということだと理解しておけばよいでしょう。

「でも実際は、月60時間の残業とか、あるよね。あれは違法?」――。ややこしいのですが、月45時間の上限を超えることも、一定の場合には認められています。特別な場合に備えて36協定に「特別条項」を設けておけば、その範囲の残業はさせることが可能です。そして、「特別条項」で認められる残業時間の上限はというと、困ったことにそれが定められていないのです。

そのため、日本の労働時間の上限は、実質的に「青天井」だとも言われており、長時間労働の規制が困難になっています。労働時間に絶対的な上限時間を法律で定めよう、もしくは、1日の勤務時間と翌日の勤務時間の間に、絶対に確保しなければいけない休息時間を法律で定めよう(インターバル規制)、という動きもありますが、経済界の反対もあり実現していません。

残業に対しては残業代の支払いが必要

このように残業時間の上限については、かなり規制が緩いわけですが、一方で残業代の支払いについては、法律で厳密に定められています。1日8時間、1週間40時間を超える残業をさせた場合には、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません(原則として1か月60時間を超える分については50%以上の割増賃金)。

これはアルバイトでも同様です(アルバイトにも労働基準法は適用されます)。例えば時給1,000円で働いていた場合、1日8時間を超える労働に対しては、少なくとも時給1,250円の支払いが必要です。

皆さんにとっては深夜労働の割増賃金の方が、なじみがあるかもしれません。夜22時から早朝5時までの時間帯に勤務した場合にも、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。

では朝の9時から夜の23時まで働いた場合はどうなるでしょう(1時間の昼休みを含む)。労働時間は昼休みを除いて13時間、そのうち5時間が残業時間となりますが、うち1時間の残業時間は深夜時間帯に及んでいます。この1時間については、残業時間であり、かつ深夜労働であるため、50%以上の割増賃金となります。

この場合、時給が1,000円とすると、

1,000円×8時間(法定労働時間)+1,000円×1.25(割増賃金)×4時間(深夜ではない残業時間)+1,000円×1.5(割増賃金)×1時間(深夜の残業時間)= 1万4,500円

の支払いが少なくとも必要です。

このように残業時間分が割増賃金になっているのは、それによって残業を抑止することが意図されているわけです。「割高な残業代を払うくらいなら、割り当てる業務を見直して減らそう、あるいは人を増やそう」といった工夫が企業側に期待されているわけです。

なので、できるだけ残業をしなくても済むように企業が工夫しているか、それとも長時間の残業を平気で求めてくるかは、これから働く側としては十分に気にしておくべきポイントです。長時間の残業が続くと、疲労が蓄積し続け、鬱や過労自殺、過労死にまで至ることもあり得ます。

残業代を適切に支払わないのは違法

労働基準法を無視して残業代を適切に支払わないことは、違法です。不払い残業については労働基準監督署が立ち入り調査を行い、是正指導を行うことができます(しばらく前に、労働基準監督官を主人公とした「ダンダリン」というドラマがあったのはご存知でしょうか?)。

より悪質な場合には、労働基準監督署が使用者を逮捕する場合もあります。今年3月23日には、中国人技能実習生に違法な長時間労働を強いていた会社社長が逮捕されたというニュースが流れていました。

労働者は不払いだった残業代を過去2年間にさかのぼって支払わせることができます(離職後の請求も可能です。日々の労働時間の記録を残しつつ、弁護士などの専門家に相談するのがよいでしょう)。

残業代支払いを逃れつつ長時間労働を強いる手法

残業について、時間的な規制は緩いものの、残業代支払いの規制は強いことを見てきました。しかし問題がある企業は、なんとかして人件費を抑えつつ、長時間労働をさせようとします。その時に取られる手法が、固定残業代や裁量労働制、年俸制などの「悪用」です。皆さんが労働法に詳しくないことに便乗して、「長時間労働だけれど残業代が支払われなくても仕方がない」と思わせるわけです。

詳しいことは、また次回に。

法律監修:嶋崎量(弁護士・神奈川総合法律事務所)

上西充子(うえにし・みつこ) 法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科教授。1965年奈良県生まれ。労働政策研究・研修機構で7年あまり調査研究に従事したのち、2003年より法政大学へ。若者の学校から職業への移行過程と初期キャリアに関心。近著に、石田眞・浅倉むつ子との共著『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)。

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