理系と文系の違いは何? グループワークで気付く大切なこと
「コミュ力」に悩む学生へ贈る言葉(3)
私は就職に特化した講義を国内の約20大学で担当しています。その中には理系学部あり、文系学部あり。理系と文系、さてコミュ力の違いはあるのでしょうか?
グループワークを取り入れた講義がミソ
私の講義は一方的に話すのではなく、極力、学生のみんなに参加してもらうようにしています。近年、米ハーバード大学の「人生を変える」対話方式の授業が話題になりました。そんなにカッコイイものではありませんが、私はグループワークを取り入れた双方向の講義を20年前から行っています。
私は講義中、1人で20分以上続けて話さないようにしています。人の集中力は20分以上持たないと思うからです。20分程度話したら、その中からテーマを投げかけて、5分程度、隣同士のペアか数人のグループで話し合ってもらい、発表してもらいます。それに対してまた私から講評をするというスタイルです。
90分の講義の中で、少なくとも1回はこういったグループワークの時間を取るようにしています。例えば午後一番の時間帯で、なんとなくみんなが眠そうになってきたな、と思ったら、グループワークを始めます。学生のほとんどは、眠くなった隣の人を起こして、楽しそうにイキイキと話し合いをしてくれ、講義が活気づいていきます。
やってみると参加姿勢の違いくっきり
話し合うテーマの一例は「インターンシップを行うことで企業が得るメリットは何か?」などです。インターンシップの準備講座の中で質問しました。インターンシップは企業側としても経費がかかるので、なぜわざわざそれを実施するのか、企業の立場に立って考えて欲しかったからです。インターンシップは2、3年生の8~9月に実施される場合が多く、その前の準備を目的とした講義が6~7月に集中します。私は首都圏の5大学でインターンシップに関する講義を担当しました。
そのインターンシップの準備講座は理系と文系両方で行いましたが、気になったのは、理系の学部で、隣の人との話し合いのグループワークに加わらない学生が数名いたことです。私は教室全体を回って、話し合うように促して歩きます。それでもかたくなに手を振って拒絶したり、下を向いて知らん顔をしたり、はたまた教室を出て行ってしまったりという学生がいます。それは理系の学部に目立つ気がします。あまり強要して傷つけても悪いし、グループワークに参加しない人たちに時間をかけすぎるわけにもいかず、残念に思います。
学生によっては、授業中は講師からの授業を静かに集中して聴いて、ひたすら知識を増やしたいと思っているのかもしれません。そんな学生にとっては、私の講義は迷惑に感じるのでしょうか。ですが、私の講義は就職につながるものや、コミュニケーションに関するものですから、学生と双方向の講義や、グループワークで話し合う力を磨くことが有効と感じています。多くの学生はそれを楽しんでくれていますが、好まない人たちもいるし、特に理系の学生にその傾向があるな、と思うのです。
ノリのいい理系学生もいるが......
もちろん、理系の学生にもコミュニケーションが得意で、ノリのいい人たちはたくさんいます。自ら発表してくれたり、わざと間違って笑いを取ってみたり、というエンターテイナーも存在します。「前に出てお辞儀のお手本をやってみて!」と頼むと、さっと手を挙げて出てきて、ワザと鉄板のようになってひょうきんなお辞儀をして見せて、300人の学生を笑わせてくれたのは土木工学系の男子学生です。土木工学というと、土木工事の現場で監督として働く人が多いわけだから、そのくらいの豪放磊(らい)落な感じがいいよね、と思います。
また、薬学部のある男子学生は、「おにぎり」のかぶりものをして前に出てきて、私を驚かせてくれました。薬学部といえば薬の開発を通して人の病気を治す、薬を提供して人と関わり、人を癒す仕事だから、笑いのセンスがあるのは大事ですね。忘れられない学生たちです。
ですが、それは一握りの学生。理系の学生には私の講義の中で、グループワークを嫌う人が目立つ気がするのです。
理系がグループワークを好まない訳は?
理系の学生がグループワークを好まないのには、いろいろな理由があると思います。そもそも私の講義に興味を持っていないのかもしれません。ですが、ひとつ危惧するのは、理系の学生のみんなが、将来の仕事について、「『コミュ力は必要ない』と思ってはいないか?」ということです。
大学の学部を選ぶとき、将来の就職についても考えるはずです。文系の例えば、経済学部に進む学生は「将来の仕事は営業かな?」と考えると思います。
先日もある大学の経済学部の講義で、「ここにいる男子の9割はまずは営業をやるようになるから」と断言し、引導を渡したところ、一瞬、水を打ったようにシーンとなりました。彼らは動揺したというよりも、「営業をやる」決意を新たにしたという感じでしょうか。 営業をやるんだという覚悟の学生は、コミュ力を磨こうとします。私の講義には食いついてきます。当然、グループワークも積極的です。
ですが、理系の学生のみんなはどうでしょうか。コミュ力を磨くことを必要と感じているでしょうか。IT系の会社の人事に「採用したい学生は?」と聞くと、「人とコミュニケーションが取れる学生ですね」という答えが返ってきます。プログラミングひとつとっても、自分の好き勝手につくるのではありませんね。依頼されたものを正確に聞き取って、形にしていくことが必要です。依頼者であるクライアントとコミュニケーションが取れなくてはダメだということです。
理学系の研究職ではどうでしょうか? 最近のノーベル賞を取る科学者は、1人で栄誉に輝くことが少なく、複数の科学者との共同研究の場合が多いようです。大学の研究室は1人の教授だけではなく、その下に何人もの研究者がいて、チームで研究を進めていきます。
工学系ならばモノづくりの世界ですから、さらに多くの人とチームを組んで働くようになります。保健関係であれば、医者、看護師、薬剤師、皆が看者さんと向き合って、チームで看護するというチーム医療が進められています。
理系の学生のみんなも「働くにはコミュ力が必要なんだ」と腹をくくってください。
仕事を意識してコミュ力をつけよう!
理系の仕事であれ、仕事というのはどれひとつとっても、1人でできるものはありません。理系であってもチームで仕事をすすめる、チームワーク力が大切になります。そのためにコミュニケーション力が必要なのですね。コミュ力を必要とする仕事は何も営業だけではないのです。
最近は理系の学部からも「就活面接講座」などを依頼されることが多くなりました。理系学生にもコミュ力を磨いてほしいという現れですね。私としては就活の時期だけでなく、低学年からコミュ力を磨いてほしいと願っています。なぜならコミュ力は一朝一夕につくものではなく、面接だけが通ればいいというものではないからです。コミュ力を磨く方法、そのひとつが大学でのグループワークです。是非、積極的に参加してコミュ力をつけてほしいと思います。この「日経カレッジカフェ」においても、いっしょに考えていきましょう。
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