働く環境よりも「目の前の仕事が面白いか」
どうする? 女子のキャリア(3)
「長く働き続けられる会社ですか?」
大学までは男女差なく机を並べて教育を受けてきたのに、就活で初めて「女性フィルターがあると感じる」と言う女性は多いですね。実際に女性フィルターがあるかどうかはともかく、面接官の立場になってみると、男女の違いを感じることがあります。
私がかつてリクルートの社員として新卒・中途採用の面接官を務めていた頃、面接の終盤に、「何か質問はありますか?」と聞くと、本当に多くの女性から「女性が長く働き続けられる環境ですか?」と質問されました。男性からこういう質問をされた記憶はほとんどありません。
この質問はあまりに多いので、正直「またか」と思わずにはいられませんでした。企業の管理職として利益管理する立場からすると、「長くこの会社に勤めていられますか?」という問いに対して、「どのくらい活躍する前提で?」と返したくなります。また、人事制度の充実ぶりを問うているのか、社内にモデルとなる女性社員が在籍しているかと聞きたいのか、何が知りたいのかわからないと、答えようがありません。
女性は就職先を選ぶときから、結婚や出産後も働き続けられるかどうかを考える学生が多いので、「"幻の赤ちゃん"を抱いて就活している」と言われます。「人生で将来、何が起こるかわからない」「仕事と子育ての両立イメージがわかない」という女性の未来への不安が、このような質問をさせているのでしょう。確かに結婚や出産といった将来のライフイベントによって、働き方を考えざるを得ない状況に追い込まれるのは、まだまだ女性であることが多いと思います。男性のように「何が起こるかわからないから、なんだかわくわくする」という根拠レスな自信やロマンだけを持つことは難しいのかもしれません。
あなたのキャリアは「山登り」? 「川下り」?
その不安のあまりか、女性は綿密すぎるキャリア計画を立てようとする傾向があるようです。私も管理職時代に若手女性社員と面談をしていたら、「3年営業を経験したら、本社スタッフになって人事を3年くらいやって、その頃に結婚をして、管理職になって...」と細かい計画を聞かされて驚いたことがあります。人事への異動が叶わずに暴れていた彼女は、その後に転職して、10年後の今は専業主婦として海外に住んでいて、全く計画と異なる人生を歩いていますが、幸せそうです。
人生とキャリアの計画を立てること自体はとても素晴らしいことで、必要なことでもありますが、計画通りにキャリアを積んでいけるということは現実の社会では滅多にありません。長期にわたるキャリアの目標を立て、そのために細かくすべきことを積み上げていく「山登り型」キャリア形成だけを指向すると、計画通りに進んでいかないことで強い挫折感を感じたり、自分を必要以上に責めたりしてしまうことがあります。
それに対して、とにかく目の前のことに懸命に取り組み、流れに身を任せながら、「結果としてのキャリア」を築いていく「川下り型」キャリア形成でも、時に思いもよらなかった大きなチャンスが巡ってくることもあります。どちらが正解、ということではありませんが、「山登り型」キャリアだけにとらわれすぎないことが重要だと思います。
来たバスに乗ってみよう!
ある超大手企業でグローバルに活躍する女性が、「どのような基準でキャリアを選択してきたのですか?」と若手女性から質問を受けたとき、「うーん」と少し首をかしげた後、「来たバスに乗った、という感じです」と爽やかに答えていました。私は共感すると同時に、毎日懸命に仕事をし続け、目の前に機会が訪れたときに、確実にそれを生かしてきた彼女を心から尊敬する気持ちが湧きました。
一方で、会社で「長く働き続けたい」という気持ちも、すごく大切にしてほしいものです。だからこそ、その気持ちの中身を少し分解して、自分で納得できる形にしてほしいなと思います。将来どうなるかはわからないけれど、今のところ「どんな形であれずっと仕事をしている女性でいたい」のか、「同じ会社でギアチェンジを繰り返しながら働き続けたい」のか......。自分にとって「長く働く」というのはどういうことなのか、具体的に考えてみましょう。
結婚や出産などライフイベントに対応する人事制度や取得率、実際に働く女性のケーススタディは、ホームページや説明会で積極的に情報公開している企業も多いので、面接の前に調べられることもたくさんあります。管理職比率や勤続年数などのデータも公開されていたり、ランキングになっていたりするので、環境に関する情報は、意外と簡単に集まります。自分の不安を棚卸しして情報を確認しておけば、「御社では女性が長く働き続けることができますか?」というような漠然とした質問より、入社してから自分ができる仕事や、一緒に働く職場の仲間についての質問をしたくなるのではないでしょうか。
将来どうなるかはわからないのは、あなただけでなく企業も同じこと。「絶対に弊社で定年まで働いていただきます」とは言えないでしょう。お互い「今のところ」であり、せいぜい「少し先のこと」までしか言えないのだから、「ずっと先の未来」について難しく思い悩む必要はありません。「どんな30代、40代になりたいか」「あんな大人の女性が素敵」といったイメージを思い浮かべるだけでもいい。そんな未来へつながるこれからの20代をどう過ごすかが、若いみなさんにとって、今一番重要で必要な計画なのですから。
もうひとつ、長く会社員をやってきて改めて感じるのは、実は活躍しつづけるためには必ずしも環境が整っていなければならない、というわけでもないこと。目の前の仕事が面白い、成長を感じられる、一緒に働く人たちが素晴らしい、そう思えるエネルギーがあれば、大抵の困難は乗り越えられる。あなたにとって、そんなエネルギーの源は何なのか、何が一番わくわくした気持ちにさせるのか、そんなことを一生懸命考えてほしいなと思います。
撮影協力:東京理科大学
1969年生まれ。92年上智大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材系事業の営業職を経て「就職ジャーナル」副編集長、「リクナビ派遣」編集長、カンパニーオフィサー、ダイバーシティ推進マネジャーなどを歴任。13年、株式会社ACT3設立。女性活躍支援など、企業の組織開発・人材開発にかかわる調査・企画立案、コンサルティング・研修・講演などを行う。著書に『「元・リクルート最強の母」の仕事も家庭も100%の働き方』(KADOKAWA)。二児の母。
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