ハヤカワ五味は何屋さんなのか?
バカこそものの上手なれ(1)
はじめまして。ハヤカワ五味と申します。今、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科というところの2年生で4月から3年生です。今回は、本連載の記念すべき初回ということで、ハヤカワ五味の自己紹介をしたいのですが、正直なところやってることや肩書きが多すぎて、自己紹介だけで1回分を消費しようと思います。
ちなみに、この連載を通して「ハヤカワ五味は意外に普通だな」「あ、これなら私もできるかも」って思ってもらえるといいな。ということで、最初は永遠の問い「ハヤカワ五味は何屋さんなのか」ということについて話します。
胸の小さい人向けランジェリー
まず最初に、なぜこのような連載をさせていただく機会があったかというと、私は胸が小さい人向けランジェリーブランド「feast」というものを大学1年生の時に立ち上げ、その勢いで2015年の頭に法人化した、いわゆる現役女子大生起業家なのです。なので、肩書きで言えば「大学生兼代表取締役社長」というのが普通かなと思います。
ただ、自分では女子大生起業家という肩書きが大嫌いです。そのため、余程求められない限り自分のことを代表取締役とか表記することはしません。なぜなら、私は自社商品のデザインをしていたり、もともとグラフィックデザイン学科であることもあり、「デザイナー」でもあります。それ以外にも趣味でライブペイントのイベントをやったり、自主的にゲームを作ったり文章を書いたりなど多方面で色々活動しており、女子大生起業家という肩書きにとらわれずに接されたいし、自分自身、驕ることなく様々なことに取り組んでいます。
では、具体的にその様々な活動がある中で、何が軸になっているのか、どういったベース、共通項があるのかという意味で「何屋さんなのか」という質問に戻ると、私自身は広告屋さんかなと思います。そもそも、広告って多義だと思うのですが、私は「広く告げる」ことを考えるという意味での広告屋さんです。なので、代理店、とかいう感じでもありません、興味はありますが。
でも、代表取締役なら経営を勉強してるのかと思うし、デザイナーなら被服の勉強をするべきだし被服屋さんの方がいいんじゃないの? って思う人もいるでしょう。ただ、いくら良いものを作っても伝えることが下手で上手く売れない、いくら良い考えがあってもいい伝え方ができなくて正しく理解してもらえないんですよ。
売れるタイツと売れないタイツ
実際、私は高校生の頃にオリジナルプリントのタイツの販売などをしていました。その時、周りにも数十人くらいオリジナルプリントのタイツを作っている人がいてプチブームみたいな感じになっていたのですが、その中でも「タイツ販売だけで生計を立てられている個人」と「めっちゃいいタイツを作ってても売れてない個人」に分かれていました。
私は生計を立てるまではいかないけど、赤字にもならずそれとなく利益も出ていました。その時に、なんであの人はあんな良い作品を作っているのにあまり売れないんだろう、という疑問に当たりました。その際に至った自分の結論は、商品写真の見せ方と説明が下手だということでした。いくら良い商品を作っても、いい伝え方ができないと損をしてしまうという事実は、美大でクリエイターになることを目指していた自分には衝撃的でした。
でも、そこで改めて自分の人生を振り返ってみると、人への伝え方が下手で損をしてしまう場面はとても多かったです。例えば、自分はなんでも真正面から率直に意見を述べることが多かった。そのため、小学生の頃などは大人ぶってる、自分たちと意見が違うということでいじめられることも多くありました。でも、その際にちょっと違ったアプローチができたら、いじめられることはなかったかもしれません。
夢は広告の仕事
世渡りが下手な、何かと損をしがちな自分にとって、伝え方というのはとても大きなツールだと気付き、美大受験生だった私は広告を専攻すべくグラフィックデザイン学科を目指すことにしました。もともといじめられっ子だったこともあって、伝えるというコミュニケーションには興味があり、その勉強こそ生きることそのものだ! と思い、今、広告屋さんになろうとしてるし、なりたいと思っています。
ただ、勘違いしないでほしいのは、経営や被服を下に見ているという訳ではありません。私の場合は、大げさな話、生きて行くためにも広告の力が必要だなと思い、興味もあったので学びたいと思った訳です。もともと伝えることが得意なら、学ぶ必要がないのですから。なので、世渡り下手な元いじめられっ子が、楽しく生きて行くために選んだ選択肢が「広告」だったのです。
実際、私の活動全ては商品の表面デザインが良いというより、私の根っこから出てきたドロドロとしたコンセプトの表面的な伝え方がちょっと上手いというだけでなりたっています。例えば、弊社ブランド「feast」の例でいうと、feastのコンセプト「胸が小さいからこそ可愛いランジェリー」というもの自体は、クリティカルな先駆者こそいないけれど、割とありきたりなコンセプトです。さらに、おおもとをたどっていくと、私自身のドロドロとした「巨乳なヤツらも貧乳をバカにするヤツらも全員くたばれ!」という最低な思いからきています。
普通の広告専攻の美大生です
そんなもの、ポイっと世の中に出したところで売れるわけがない。なので、私は最初のリリースの段階で意図的に軽い炎上をさせつつ、フォロワー1000人くらいの低い発信力の中で、その商品ツイートを見てくれる数(リーチ数といいます)を稼ぎました。意識したのは「自分のカップ数を言いたいがために拡散するという、拡散に対するモチベーション作り」と「男性でも拡散しやすい、いやらしさのないフレッシュな写真」と「かわいさ」です。このような手法は、後から知りましたが実際広告現場でも使われているみたいです。おそらく、タイツを売った経験や、広告の大切さに気づいてなかったらそこまで考えて発信することは難しかったでしょう(良かったら最初の最初のfeast発表ツイートを見てください。検索したら出てきますので)。
つまり、この第1回で何を感じてもらいたいかというと、私は《伝えること》以外においては、専門知識もほとんど付け焼刃だし、これを読んで下さってる皆様との間にも壁はほとんどないってことです。経営の勉強もしてないし、被服の勉強もしてないし、特段コネがあった訳でもない。普通の広告専攻の美大生です。よく、どうやってその技術や知識を学んだんですかって聞かれますが、私は伝え方が上手いだけで技術も知識もないから! 「ハヤカワさんは元から才能があって環境にも恵まれていて顔もいいし羨ましい、自分には無理だ」と都合よく私のことをスゴイ人にして、自分ができない理由にするのはもったいないよ。
それを前提に第2話以降を読んでもらえると、あ、これなら私もできるかもって思ってもらえると嬉しいです。思ってもらえたらいいな。ということで、第1話はここでおしまい。次回をお楽しみに。☆
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