残業不要、家族の時間守る仕事 生み出す女性の新発想ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019

2018/12/18

平野未来さん 手書き文書を読み取る事務作業代行AIを開発 

「人工知能(AI)の力で、人々がワクワクしながら働く社会にしたい」と語るのはAI開発のシナモン(東京・港)社長の平野未来さん(34)。イノベーティブ起業家賞を受賞した。申込書や請求書、手書きに頼っている資料をAIが読み取り、面倒な事務・集計作業を代替することをビジネス化した。

AI開発会社 シナモン社長 平野未来さん

東大大学院在学中に友人らと起業したIT企業はミクシィに売却。2社目となる今の会社は「海外で挑戦したい」との思いから、シンガポールで創業した。明確な事業モデルがあったわけではなく「あくまで直感」と笑顔を見せる。

しかし、満を持して開発した写真共有アプリは3年間、鳴かず飛ばず。調達した資金はみるみる減り、「あと半年で資金がショートする局面まで落ち込んだ」。リストラを迫られ、会社を倒産させないためには何でも売ると日本に戻り、受託開発で食いつないだ。

すでに大手が盤石で営業は困難を極めた。ただ試行錯誤の末、提案資料にAIの文字を入れると、客先の反応が変わってきた。思い切ってAI事業に転換した。手書きの申込書や契約書を人海戦術でデジタルデータ化していた大手金融機関や保険会社が「長時間労働を減らすのに役立つ」と評価し一気に需要が広がった。どん底から一転、18年5月には9億円近い大型資金調達にも成功した。

単純作業に費やす時間をAIが取って代わり、人が考え、創造する働き方を生み出す。未来の働き方に果たす役割を実感している。

あきらめずやってこられたのは、技術が生活を一変させると実感しているからだ。「子どもの頃からいじめられっ子で、周囲にうまくなじめなかった」。高校時代にインターネットと出合って、深夜までメールやチャットにのめり込んだ。学校だけだった自分の小さな世界が一気に広がった。

家庭では0歳と1歳の2児の母。時間の使い方は大きな課題だ。家事代行やベビーシッターを活用し「家族が楽しく過ごす時間を優先している」。会社経営でも抱え込むのではなく、他の人にできることは積極的に任せるようになった。「家庭でも会社でも組織として価値を最大化することが大切と気づいた」

AIは人間の仕事を奪うのではなく、人が楽しく生活したり、自分らしく働いたりするための料理のスパイスのような存在。「シナモン」の社名にはそんな願いを込めた。目標は「世界最大のAI企業」。小さな体で世界を飛び回る。

働き方の新発想で注目 ~取材を終えて~

中村さんは、ここ数年の世の中の変化に驚いていた。開店当時は単においしいステーキ丼店としての注目だったという。それが、2017年ころから「働き方改革の旗手」として一気に注目を浴びる。この活躍で「家族と時間を過ごしたい」という素朴だが、かないにくい夢と、ビジネスが両立する世の中になればいいと思った。

AIへの事業転換は「行き当たりばったりだった」と明るく笑い飛ばす平野さんは、困難な状況さえ楽しんでいたように見える。失敗を受け入れ、学び、そこからまた全力で前に進む姿には、迷いがない。そこに周囲が自然と巻き込まれていく底力を感じた。

(松原礼奈、飯島圭太郎)

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