「リケジョ」という言葉が嫌いだった
発信! 理系女子(9)
こんにちは! 東北大学サイエンス・エンジェル(SA)、工学研究科の井上和香です。今回の記事では、SAの活動の一面である「女子のつながり」に注目して、「リケジョ」のリアルをお伝えします。
「リケジョ」のリアル
最近、テレビや本でも「女子」というワードを含む言葉を目にする機会が増えてきました。私たち、「理系女子」のその中の1つです。「女子力」という言葉をはじめ、「女子」という言葉には「○○女子とはこういうものだ」という漠然とした定義と期待(?)が込められています。
例えば、「理系女子」は「理系」にいるだけでなく、「知的で清楚で真面目」というイメージが強いと、今までにSA活動で接した中高生に何回も言われてきました。しかし、「理系女子」にももちろん、1つの言葉ではくくれない色々なタイプの人がいるのです。
特に女子が少ない環境では、まだまだ「リケジョ」イコール「真面目で知的で清楚」なイメージが抜けないように感じます。今でこそ、女子が理系を選ぶのは珍しいことではなく、「リケジョに多様性が出てきた時代」です。一方で、自分たちの親や先生は、「女子が理系に進むのが珍しい時代」の人たちであり、2つの価値観が入り組んでいる理系の今は、そもそも「女子が普通にいる環境」を作っている途中なのです。
「リケジョ」という言葉が嫌いだった
自分のいる環境は女子が1割しかいません。それゆえに「女子」が目立つ環境でした。「リケジョ」という言葉でできたイメージは、時に自分と同じ「リケジョ」同士の絆ともなりましたが、時に自分を苦しめてきました。
当時、どちらかというと派手な服装が好きで、わいわい騒ぐのも好きだった私は、「理系って大人しくて地味」というイメージを持つ一部の人に「本当に理系なの?」と聞かれたことがあります。その言葉を聞くうちに、「そもそも男子だったらこんなことは聞かれないのに」と強く疑問を感じるようになりました。次第に「リケジョの型にはまれない自分」が苦しく、自信を失ってしまうほどでした。
ですが、SA同士の交流を重ねるうちに、同じリケジョでも様々な経歴を持ち、服装も雰囲気もみんな違うことが普通だと感じるようになりました。「リケジョに決まった形なんてない」と思うようになって、自信を取り戻すことができました。
「理系女子力」という可能性
SAの仕事、それは科学の楽しさや自分の経験を通じて、「理系女子」の楽しさを発信していくことです。具体的には、子供達向けに科学教室を開いたり、女子中高生の進路相談や進路指導に関わったりしています。私自身もこの2年間、イベントを通じ、子供達に科学の不思議、特に工学の魅力を伝えてきました。
実は、SAには発信するだけでなくもう1つの大事な役割があります。それは、「理系女子をつなげること」です。「理系女子」はまだまだ少なく、大学院に入学して研究室で一日過ごすようになると、自分の所属以外の人と知り合ったり、情報交換したりすることもあまりありません。ですが、SAでは女子学生や女性研究者と交流する機会が定期的にあります。こうして、リケジョ間の繋がりを深め、さらに、次の世代につなげていくのです。
これから10年、20年先、今度はSAの私たちが親や先生になる番です。「女の子が理系に進学するのが珍しくない世代」の私たちが、今度は「女の子が特別でも困難でもなく理系に進学する」世代を育て、支えるようになるかもしれません。そのために、型にはまらない、「様々なタイプがいて、それぞれ違うことを楽しく学ぶ女の子たち」であるSAが伝えられることはまだまだ沢山あります。それこそが、私たち様々なベクトルを持つ「理系女子力」の見せ所であるのです。
まずは、これから理系に進む女子中高生に、「リケジョにも色々な形、活躍の仕方があること」、科学に触れ始めた子供達に「女の子も男の子も科学の上では平等なこと」、そして男性も巻き込んで「互いに活躍、共存するためには何が必要か」を伝えられることが私の夢であり、SA活動への希望です。
(井上和香)
次世代の研究者を目指す中高校生に「女性研究者ってかっこいい!」「理系って楽しい!」という思いを伝えるため、2006年に結成。東北大学の自然科学系10部局に所属する女子大学院生が、中学・高校での出張セミナーや科学イベントで科学の魅力と研究のおもしろさを伝えている。メンバーは宇宙・自然・ロボット・環境・ヒトや動物の身体のしくみなど、それぞれの専門分野で日々研究中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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