ファッションも音楽も大好き! ブラックカルチャーとの出会い
アジア人は私だけ~米大学留学記(5)

長い冬休みが終わり、ついにスペルマンでの最後の学期が始まりました。スペルマンに戻ってからは、キャンパスを少し歩くだけで友達から食堂のおばちゃんまでWelcome back!とハグをしてくれ、この小さくて暖かなコミュニティにますます愛着がわく今日この頃です。
さて、今回は軽めの話題で、キャンパスにあふれるブラックカルチャーとカルチャーショックについて書きたいと思います。
「アメリカの大学生はスウェットにジーパン」はウソ!?

私は、アメリカに来てから今まで、幸いホームシックなどもなく普通に生活を送っていますが、ひとつだけカルチャーショックを感じたことがあります。それはずばりファッションです。
私は留学前、アメリカ留学経験者の友人やアメリカに住んでいたことのある人に、アメリカで日本と同じ格好してたら浮くよ、とか、「パーティー行くの?」ってバカにされるよ、と聞かされていました。アメリカの大学生は勉強に必死でおしゃれなんてする暇がなく、皆大学のスウェットにジーパンにビーサンで、日本の女子大生みたいにかわいいワンピースに化粧ばっちりでは浮く、というのが大多数の意見でした。
私は日本では(少なくとも人前では)ある程度ちゃんとした格好をするよう心がけていましたが、郷に入りては郷に従え、ということで渡航直前にユニクロに行ってジーパンを買い込み、こちらに着いてすぐ大学のブックストアでスウェットを買い、「アメリカの大学生っぽく」装うことにしました。

ところが、授業が始まってしばらくして、学生が全体的にものすごくおしゃれなことに気が付きました。実用性重視のバックパックではなく、凝ったデザインのかばんに教科書を入れ(若干はみ出ていたりする)、ヒールの靴を履いて、文字通り爪の先から足元までおしゃれをしている人が少なくないので、まともな服を持ってこなかったことを後悔しました。もちろんスウェットにジーパンの人もいますが、ラフな服装をするにしても、全体的にきわどい、というかだいぶ大胆に肌を露出し、それこそ「パーティー行くの?」と突っ込みたくなるようなセクシーな恰好をしている人もいるので(本当にパーティーなのかもしれませんが)、最初は面食らいました。
その後は無理にアメリカっぽくする必要もなかったな、と思い直し、自分の好きな洋服を着ているのですが、変に目立つこともなく、知らない学生が「そのブーツかわいい」「あなたのワンピース好き」などと声をかけてくれたりするので、むしろ話のネタができて嬉しいです。
ちなみに、隣の男子大学・モアハウスの学生もおしゃれな人が多く、平日の1限から何故か三つ揃いのスーツだったり、何かの雑誌に載っていそうな着こなしをしている人がたくさんいます。「おしゃれインスタグラマー」としてフォロワーがたくさんいるような人もいて、キャンパスで人間観察をしているだけで美的センスが磨かれているような気がしてきます。
髪型に凝っている人も多く、1週間前にアフロだった子が金髪ショートになったかと思えば、すぐコーンロウになっていたりして、髪型で人を識別するのが困難です。アフリカン・アメリカンの女の子が全体的におしゃれなのか、スペルマンに来ている女の子が特別おしゃれなのかはよくわかりませんが、いつもキャンパスの至る所で映画のワンシーンのような素敵な佇まいの女の子を見ることができ、個人的にはとてもいい目の保養になっています。
「とりあえずビヨンセ好きって言っとけ」

もうひとつ、ブラックカルチャーを語るうえで、やはりなんといっても音楽は欠かせません。何もない日にキャンパスを歩いていても、必ず1回は誰かの携帯から流れるヒップホップ・R&B等を耳にしますし、寮でもいつも誰かしらが爆音で音楽を流して熱唱しています。学内で何かイベントがあれば(社会・政治系の比較的堅いテーマでも)BGMは決まってブラックミュージックで、100人近くのメンバーを擁するグリークラブ(聖歌隊)は学校の花形クラブです。ちなみに一番人気の歌手はビヨンセで、ある友達曰く「とりあえずビヨンセ好きって言っときゃなんとかなる」くらいの存在らしいです。
また、隔週金曜にはマーケットフライデーというイベントがあり、昼過ぎからどこからともなくDJと露店が出現し、キャンパスは活気づきます。露店で人気なのがオリジナルのアクセサリーやTシャツで、アフリカやブラックカルチャーにインスパイアされた個性的なデザインが多く、見ているだけでも楽しむことができます。

このDJ、いったいどこから派遣されているのかよくわからないのですが、とにかく事あるごとにキャンパスにDJが登場し、そのうちに周りの皆が踊りだして大騒ぎ、というのがお決まりのパターンです。最近だと、期末試験期間中に何か食べながら勉強しようと食堂に行ってみると、何故かDJがいる、ということがありました。最初は皆も教科書に釘付けだったのですが、人気の曲がかかるとたまらず誰かが踊りだし、あっという間に食堂全体がダンスホールになってしまいました。テスト期間のストレス発散のために(?)DJまで派遣されるのには驚きました。ともかく、私は音楽を聴くのも、皆が楽しそうに踊っているところを見るのも大好きなので、毎日にぎやかなキャンパスライフを楽しんでいます。

と、このように、私はスペルマンに来て初めてアフリカン・アメリカンの文化にどっぷり浸る経験をしているわけなのですが、それは他の学生も決して例外ではないようです。アメリカ全土から集まる学生の中には白人が大多数の地域で生まれ育ったという人もいますし、特に西海岸・東海岸の大都市のように人種・文化的に多様な地域の出身だと、付き合う友人も当然様々なバックグラウンドを持っているので、スペルマンで初めてここまでディープなブラックカルチャーに触れた、という場合もあるそうです。
アメリカの非・黒人大学から国内留学生としてスペルマンに来ている友人は、「すべてのアフリカン・アメリカンは短期間でもいいからHBCUで学ぶべきだと思う」と言っていました。HBCUは単なる教育機関としてだけでなく、黒人文化を後世に伝えていく役割も果たしているのだと彼女は言います。「アメリカ文化」とひとつに括ることができないくらいたくさんの文化が混ざり合っているアメリカにおいて、学生たちは黒人大学のコミュニティに暮らす中で自分のバックグラウンドを形成する歴史と文化を再確認しているようです。

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