未明の襲撃! 怒涛のオリエンテーションアジア人は私だけ~米大学留学記(2)

渡邊知彩杜

渡邊知彩杜

前回は留学を決めた理由を見栄えよく書き連ねてみましたが、実際のところ渡航前は不安でいっぱいでした。英語は通じるのか。私は相手にしてもらえるのか。そもそもちゃんと飛行機に乗れるのか、入国できなかったらどうしよう...などなど、出発当日は食事が喉を通らないほど緊張していました。しかし、スペルマンに到着してからの怒涛のオリエンテーション期間は、そんな不安を感じる暇もないほど濃密なものでした。

スペルマンでは、約1週間にわたり新入生向けオリエンテーションが行われます。アメリカの他の大学を見たわけではないので比較はできませんが、プログラムの多くは他の大学にはない、かなり独特なものといえると思います。学生証を作ったり図書館の使い方を教わったり、事務的なタスクももちろんたくさんありましたが、オリエンテーションの真の目的はそこにはありません。

パジャマ姿で全員集合

ケニアからの留学生と。今年入学の留学生は、日本以外にケニアから2人、エチオピアから1人、バミューダ諸島から1人。皆正規留学生として、これから4年間をスペルマンで過ごす

オリエンテーション3日目の土曜早朝5時、ベッドで熟睡していた私は突然ドアを激しく叩く音に起こされました。寝ぼけながらドアを開けるといきなり実行委員らしき学生2人に何寝てんの!?と怒られ、外へ行くよう促されました。混乱しながら寮を出ると、日の出前の暗闇の中に、謎の歌を口ずさみながらのそのそと移動するパジャマ姿の学生の集団。これが衝撃のオリエンテーションプログラムその1、"The Wake Up"です。

スペルマンの文化を表す最も象徴的な言葉のひとつに、"Sisterhood"があります。明確な定義があるわけではありませんが、私は専攻や学年、在校生・卒業生の垣根を超えたつながり、家族意識のようなものと解釈しています。そして、安眠を邪魔されてだいぶイラつきながら向かった先で行われたのは、新入生に"Spelman Sisterhood"の一員としての自覚を持たせるための大切な儀式でした。

圧巻の壇上パフォーマンス

式では、まずスペルマンの歴史を収めた映像を鑑賞し、卒業生による激励を受けます。さらに、Spelman Hymn(賛歌)という校歌のようなものを歌い、最後には新入生ひとりひとりが立ち上がり、自分の名前と、これからSpelman Sisterhoodの一員になる覚悟を示す宣誓をします。私も大学4年目ではありますが、ここでは1年生なので、皆と同じように歌を歌い、宣誓をしました。それまで、オリエンテーションのことは正直あまり重視していませんでしたが、この荘厳な儀式を通して、この期間が実はスペルマンの大切な歴史と伝統の一部であることを知りました。全員パジャマなのがシュールでしたが。

このように、スペルマンでは単なる"学友""同窓生"としてではなく、歴史と文化を共有する、コミュニティとしての縦横の結束が非常に重視されています。そしてこれは、HBCU(歴史的黒人大学)一般にみられる傾向のようです。加えて、スペルマンはAtlanta University CenterというHBCUが密集する地域に位置しており、大学間のつながりもとても大切にされています。スペルマンのすぐ隣にはキング牧師の母校である男子大学のMorehouse College、付属のメディカルスクール、共学のClark Atlanta Universityがあり、普段から大学間で授業の相互聴講や合同イベントが盛んに行われています。オリエンテーションの中盤には、4校合同のイベントが大々的に行われ、HBCUコミュニティとしての連帯を強めます。

「なぜスペルマンで学ぶのか?」

卒業生との交流セッションにて、Class of 2020のメンバーと

さらにもうひとつ、オリエンテーションのみならず、スペルマンでの大学生活4年間を通して最も重要なイベントのひとつといえるのが、"White Dress Ceremony"です。オリエンテーション最終日にあたるこの日は、新入生全員が純白のワンピースに白いカーディガン、淡色のストッキング、黒いパンプスを着用しなければなりません。この着やせする気ゼロのドレスコードはともかくとして、このセレモニーを通して、HBCUがどんな場所なのか、スペルマンの学生になることがどういう意味を持つのか、より深く理解することができたと感じます。

White Dress Ceremonyは日本でいう入学式のようなもので、学長のお話、在校生・新入生による壇上パフォーマンス等で構成されています。プロ顔負けのダンスやアフリカ音楽の演奏、アカペラ合唱等、素晴らしいパフォーマンスが次から次へと行われる中でも、新入生の言葉はとりわけ印象的でした。「新入生の言葉」といっても、日本でよくある「桜の花が~~」で始まるような形式的な挨拶ではなく、3人の学生が壇上に上がり、身振り手振りを交え、熱の入った口調で"Blackness"を説くものでした。

"Black is beauty. It is strength, and power."彼女たちの誇り高く力強い言葉に、素直に心を動かされました。そして、長い長いオリエンテーションの締めくくりとなるセレモニーの最後には、卒業生から新入生ひとりひとりにスクールカラーの青いピンが贈られ、晴れて正式にSpelman Sisterhoodの一員として迎えられます。

卒業式の日に初めてくぐることを許される、“Spelman Gate”

オリエンテーション期間中、何度も耳にしたフレーズがありました。それは、"Make a Choice to Change the World"です。スペルマンの校章にも書かれているこの1文は、「なぜスペルマンで学ぶのか?」という問いの端的な答えでもあります。"Black"としてアメリカで生きる。その意味を知る学生たちがここに集い、ともに切磋琢磨しながら世界を変える力を培っていく。White Dress Ceremonyを終えた新入生たちの目には、「自分たちこそが世界を変える女性である」という確かな覚悟と誇りが見えました。

しかし同時に、外から来た、しかも人種的アイデンティティを共有していない私には到底計り知れない感情がある、という事実もまた、たった数時間のうちに理解できてしまいました。"Spelman Sister"として宣誓をして、皆と同じく白いドレスを着て、青いピンを胸に着け、並んで立っていても、Blacknessの真に意味するところを私は知らないし、彼女たちが何を思ってここにいるのか想像もつかない。「本当に全く違う世界に飛び込んだんだなあ」というのが、このオリエンテーションを通じた、率直な感想でした。それでも、不安はいつの間にか、「自分はいい選択をした」という確信に変わっていました。

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