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体内時計を狂わせ、スムーズな寝つきを妨げる

同学会は、今回の声明の中で、ブルーライトが体内時計を狂わせ、入眠を難しくすることを示した研究の結果も示しています[注3]

これは、米ハーバード大学などの研究者たちが2015年に報告した論文で、就寝前数時間の読書において、タブレットで電子書籍を読んだ場合と、紙の本を読んだ場合の、体内時計に及ぼす影響を比較しています。この研究では、「電子書籍を読んだグループの方が、寝入るまでに要する時間が長く、夜の眠気が少なく、メラトニンの分泌量が少なく、体内時計に遅れが生じ、翌朝の目覚めが悪い」という結果が得られました。したがって、ブルーライトを発する電子機器の就寝前の使用は、睡眠の質や健康状態、翌日の能力に影響することが示唆されました。

同学会は、「寝る前に液晶画面を見ることを控える、またはブルーライトをカットするフィルターを装着するといった対策が、一部の人々には利益をもたらす可能性がある」としています。

もう1つ同学会が心配しているのは、液晶画面を見続けることにより起こりうる目のかすみや乾燥、疲れです[注4]。原因の1つは、まばたき回数の減少にあります。ある研究は、通常は1分間に15回のまばたきが、デジタル機器のスクリーンを見ている間は、半分から3分の1に減ってしまうことを示しています。

同学会は、目の乾燥や疲れを予防する方法として、以下のようなアドバイスをしています。

●コンピュータのスクリーンから腕1本分離れた位置に座り、画面を少し見下ろす状態になるよう、スクリーンまたは椅子の高さを調節する

●グレア(ぎらぎらとまぶしい光)を低減するマットなフィルムやスクリーン・フィルターをディスプレイに貼る

●20分に1回ずつ、20フィート(6.1メートル)以上離れた場所にある何らかの対象物を20秒以上見る(20-20-20ルール)ようにして、目を休ませる

●目の乾きを感じたら人工涙液を点眼する。加湿器の使用も考える

●周囲の明るさに比べスクリーンが明るすぎると、目への負荷が高まる。目の疲労を軽減するために、部屋の照明を調節する、スクリーンの輝度を下げる、画面のコントラストを上げるといった工夫をする

●コンタクトレンズ使用者は目の乾燥が起こりやすいため、メガネを使用する時間をつくって目を休ませる。連続装用コンタクトレンズを使用していても、眠る間はレンズを外す。レンズは常に清潔に保つよう心がける

●目のかすみ、充血や涙目が続く場合、また、まぶしさや痛みを感じる場合には、眼科医を受診する

日本のブルーライト研究会もコメントを発表

なお、日本のブルーライト研究会は、米国眼科学会の発表後にネットニュースなどに報道された「ブルーライトは視力に影響しない」という記事に対し、以下のような要旨のコメントを発表しています。

「スマホの光が『加齢黄斑変性』や『網膜色素変性症』のような疾患リスクになるかの臨床データはまだそれだけの期間(数十年)の研究がないためわかりません。しかし、夜に近距離でブルーライトを見続けることは、睡眠、体内時計の点から決して体によいとは言えません。(中略)長期の健康を考える上で、使用時間に配慮する、ブルーライトを軽減するメガネやフィルター等を用いることは、それをしない30年と比較して推奨に値する選択肢と考えます」[注5]

既にほとんどの日本人が、液晶画面を見ずには日常生活が成り立たない状態にあると思います。まずは、画面を見ている時のまばたきの回数に注意してみませんか。上述したアドバイスを記憶し実践すれば、目の疲労が減るかもしれません。

[注3]Chang A, et al. PNAS. January 27, 2015 112 (4) 1232-1237; published ahead of print December 22, 2014.

[注4]American Academy of Ophthalmology. Computers, Digital Devices and Eye Strain. Mar 1, 2016.

[注5]ブルーライト研究会「ブルーライトは視力に影響しない」というネット等の報道について

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday2018年12月5日付記事を再構成]

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