■高層化された空間はすべてをのみ込む
「それから半年ぐらいかけて、練り上げたのが『スクランブルスタジアム』です。古墳スタジアムをそのまま踏襲しようとは思っていませんでした。あれは神宮外苑でしか生まれてこないアイデアでしたので。代々木公園という場所を考えたときに、明治神宮とともに生まれた代々木の森が広がり、渋谷のストリートカルチャーの元気な動きと、混ざり合うようなものがいいのではないかと考えました」
「高層化された空間はいろんなものをのみ込んでしまいます。街が広がり、にぎわうためには、水平に伸びていくストリートカルチャーの力を生かしたらいいのではないかと思います。渋谷の中心部が高くなるのであれば、こちらは市民の場として広がるといいなと考えました。同時に尊敬する丹下健三さんの代々木競技場の並びに来るということで、『これは頑張らなくてはいけないな』と思います」
■服という「もの」の力
――最後にファッションについてのこだわりを教えてください。
「たまに聞かれるのですが、ファッションについては何といったらいいかわからないというか……。服はすごく好きなんです。ただ、ファッションと服は違うものだと思っています。ファッションというと、個人の表現であったり、自分をどう見せたい、あるいはどう見てもらいかとか、見え方、見せ方の話ですよね。僕は、服をものとしてすごく好きなんです」
「知っているデザイナーのものを買うことが多いんですが、そのデザイナーの力によって気持ちが変わるんです。例えばきょうは三宅一生さんの服なのですが、着ると気持ちが自由になるんですね。本当に風を感じるというか。やっぱり着ている着心地によって、気持ちが変わってきたりします。皆川明さんのミナ・ペルホネンを着ると急に気持ちが暖かくなったり、優しい気持ちになったりします。山本耀司さんだと肩と腰で着るようなところがあって、重力を感じるんですね」
「服というものの力によって気分が変わるというか、そういった点に服の良さがあると思っています。ファッションとして、自己表現として着るよりは、自分の気持ちや気分が第一です。『それがファッションだ』といわれるとそうかもしれませんが、自分の中では服とファッションは違うものですね。あまりスタイルにこだわるというのはないので、好きなものを好きなように着られたらいいなと思っています」
――プレゼンテーションのときもそうですか。
「そうですね。そちらを優先しすぎて失礼なときもあるので、たまにはシャツを着なくてはとも思います。ネクタイは苦しいのであまりしませんが、シャツくらい着るときはちゃんと着られる大人にならなくては、という課題はあります(笑)」
(聞き手は平片均也)
■CITIZEN“We Celebrate Time”100周年展 12月7日~16日まで、表参道・スパイラルガーデン。シチズンの100周年を記念、田根剛氏による約7万2000個の地板を使った幻想的なインスタレーションなどを展示。無休。無料。
■田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research 12月23日まで、乃木坂・TOTOギャラリー・間。田根氏が全プロジェクトで実践している「Archaeological Research(考古学的リサーチ)」の方法論を展観。月祝休(12月23日は開館)。無料。
■田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Digging & Building 12月24日まで、初台・東京オペラシティアートギャラリー。「エストニア国立博物館」「古墳スタジアム」などの代表作や最新プロジェクトを大型模型や映像で紹介。月曜休(12月24日は開館)。一般1200円。