
シンガポールをはじめ、アジア各地はコメが主食で、米食激戦区のエリアと言える。スパイスが効いて脂分の多いエスニック料理などには、長年、パラパラとした長粒種(細長くて日本米よりも水分が少なく、さらさらしているインデイカ米)が合うとされてきた。
「10~20年前は、日本産米は、sticky(ベタベタして)でおいしくないと言われ、あまり評判はよくありませんでした」と長年シンガポールでビジネスをしてきた鈴木氏は指摘する。
しかし現在、日本のコメの輸出量は拡大して過去最高を記録している。そして輸出先の中で上位2位を占めているのが香港(1位)とシンガポール(2位)。香港は総輸出量の35%を、シンガポールは24%を占めている(2017年)。しかも2国への輸出量は5年連続で伸長しているのだ。ちなみに日本政府は、2019年の農林水産物・食品の輸出額1兆円という目標を達成するため、様々な取り組みを実施している。
同イベントでは日本産米の物販コーナーも設けられ、通常価格の20%割引で販売された。3日間でなんと計1トン近くものコメが売れたという。日本に旅行した際、本当においしいコメを食べて、それ以来、日本産米のファンになったというシンガポール人も少なくないのだそう。
「シンガポール人は『得したい!』という気質が強いので、納得のいくものが割引されていると気前よく購入する人も多いんです」と鈴木氏。しかし、納得するまで絶対に買わないという気質もあるので、今回のようなイベントでは「その価値を理解してもらえるように、しっかりとその特徴や歴史など、バックグラウンドやストーリー性を伝えることが大事」(鈴木氏)なのだという。
そこで同イベントでは、あえてライスボールではなく、丼(DONBURI)という日本語を使って、ステージでは丼の発祥や歴史などのプレゼンテーションも行った。ほかに能パフォーマンスや、餅つき大会なども実施して日本文化を発信。
日本の大手メーカーによる炊飯器の使い方のデモンストレーションや、日本の大手料理教室による来場者参加型のおにぎりワークショップも行われた。日本酒やライスビールなど、コメを使ったさまざまな商材も販売。さらに、旅行ブースも設置され、日本の自治体をPRするキャラクターも会場を練り歩いた。
共働き家族が多く、外食比率がかなり高い国として知られる多民族国家・シンガポール。日本人のように白いご飯だけを食べるという食文化はまだ定着してなく、必ず白飯におかずをのせたり、ふりかけをかけたりして味わっている。
今回のイベントをきっかけに、日本産米のおいしさに目覚め、今後は白飯だけをじっくり味わうシンガポール人も出てくるかもしれない。あるいはシンガポールならではの全く新しい白飯の味わい方が現地で誕生するかもしれない。さらには日本産米を食べたことをきっかけに、新潟や北海道などその産地にも興味がわき、シンガポールからの訪日客がもっと増えるかもしれない。コメ一粒一粒に大きな可能性と未来が眠っている。
(GreenCreate)