ナショジオ

ニュース

ネアンデルタール人の生活が週単位で判明 驚きの研究

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/11/19

寒さのせいで生じていた問題はまだある。冬から早春にかけての時期に、鉛汚染が見られたのだ。「いったい何をして鉛に触れたのかというのは、未解決で興味深い疑問です」とスミス氏は言う。だが、天然の鉛の堆積物は、ネアンデルタール人が生活していた場所の近くにも存在するそうだ。寒さのため、近くの洞窟に逃げ込み、そこで得られる汚染された食べものや水に頼らざるをえなかったのかもしれない。あるいは、鉛を含む物質を燃やし、その煙を吸い込んだことが原因である可能性も考えられるという。

■母乳のしるし

研究チームはバリウムの変化を調べ、ネアンデルタール人の授乳の習慣も解き明かした。母乳には、驚くほど多くのバリウムが含まれている。バリウムは、カルシウムと同じように、子供の骨や歯の成長に役立つ。

調査対象となった歯の1本は、子供が乳離れしてから形成されたものらしかった。対してもう1本には、生後2年半にわたって授乳されていた形跡がはっきりとあった。

ネアンデルタール人の授乳に関する先行研究は1例だけだ。2013年、スミス氏を含むグループが、現在のベルギーで見つかったネアンデルタール人の歯から、わずか1年数カ月しか授乳されていなかったことを突き止めた。しかし、授乳が突然終わっていたことから、子供が母親から引き離されたり、突然病気になったりした可能性が示唆されている。

そのため、今回明らかになった2年半という授乳期間が、ネアンデルタール人にとって一般的だったかどうかまではわからない。しかし、2歳半という年齢は、先進国を除く地域における人々の平均的な乳離れの年齢とも近く、ネアンデルタール人にも当てはまるのかもしれない。

「乳離れの年齢が特定できたのはすばらしいことです」と、米オハイオ州立大学の自然人類学者、デビー・グアテッリ=スタインバーグ氏は電子メールで述べている。授乳期間が2年半というのは、たとえばチンパンジーなどに比べればはるかに短いという。ボノボとともに、彼らはもっとも人間に近い種だが、通常は5歳ぐらいまで授乳する。ネアンデルタール人の授乳の習慣は、現代の人間に近かったのかもしれない。

スミス氏は、ほかの年代や環境のネアンデルタール人や、古代の人間の子供についても調査を行いたいと考えている。時代によって乳離れの年齢がどう変化したのかは、まだほとんどわかっていない。やわらかい食べものや動物の乳を原料とする乳製品が発達したことで、乳離れが早まったとする仮説もある。「しかし、ここまで厳密に検証できた人はまだいません。今回の方法を使えば、それも可能でしょう」と同氏は話す。

■複雑さを増すネアンデルタール人像

前述のクルーガー氏は、今回の研究によってネアンデルタール人の姿はさらに複雑さを増したと述べる。つまり、この研究は、ネアンデルタール人がどのような日常生活を送っていたのかを知る手がかりであるとともに、彼らは「鈍重な野蛮人」だという今までの一般的な理解をさらに遠ざけるものだという。「たとえば、誰かにネアンデルタール人と呼ばれたら、どう反応するでしょうか。少なくとも、褒め言葉ではありませんよね」

「しかし、ネアンデルタール人はとても複雑でややこしい人々だったのです。調理もしていましたし、さまざまな植物や動物を活用し、植物を薬に使うこともしていました。アクセサリーも付けていましたし、壁画も描きました。死者の埋葬まで行っていたのです」

今回の研究は、冬が来ることによる影響や、子育ての方法など、彼らの生活を今までになくありありと見せてくれる。まさにクルーガー氏が記す、「『彼ら』と『私たち』の境界線は、日々曖昧になっています」という言葉のとおりだ。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年11月2日付]

ナショジオ 新着記事

ALL CHANNEL