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売店では酒を量売りしてくれる

石井さんは石井酒造の8代目。2013年に26歳で社長に就いた。最初に手がけたのは「二才の醸」という新銘柄を立ち上げるプロジェクトで、クラウドファンディングの手法を活用した。ほぼ1カ月の間に目標金額の2倍以上の約200万円が集まった。社長をはじめ、醸造責任者も銘柄ラベルのデザイナーもクラウドファンディングの運営者も、そして原料米を栽培した農家まで全員20代だった。

若さを武器に、他社には難しい、20代に照準を絞ったマーケティングで「新生・石井酒造」を印象づける戦略だ。青二才からとったという「二才の醸」には「未熟なだけではないぞ、という気概を込めました」。石井さんが30代に突入した今、「二才の醸」プロジェクトはどうなったのだろうか。

「今年から『二才の醸』銘柄は、次の次の造り手に譲渡されています」と石井さん。経験がものをいう酒造の世界で、「オール20代」が条件の商品作りが綿々と受け継がれていることに驚く。2016年から2シーズン、「二才の醸」を造った2代目は宝山酒造(新潟市)、3代目は「御慶事」が主力銘柄の青木酒造(茨城県古河市)だ。「孫が生まれたような気分です」と石井さんは笑う。

2017年3月から6月まで販売した「雪どけ酒 冬単衣(ふゆひとえ)」はシャープとのコラボレーションが話題を呼んだ。凍らないぎりぎりの温度、-2℃を飲み頃として提案。シャープが液晶材料の研究で培った蓄冷技術を応用して開発した保冷バッグ(酒瓶を覆うカバー)を利用することで適温を保てる仕組みだ。

石井さんの知人から「シャープが蓄冷技術の商品化を探っている」という情報がもたらされ、アイデアを出すなどのやりとりを続けるうちに連携に発展したという。濃厚でコクのある純米吟醸酒を氷点下に冷やし、口に含んだ際の温度上昇によって味わいの微妙な変化が感じ取れる。「試飲イベントなどではこの件で石井酒造を知り、ブースを訪ねてくれるお客さんもいます」と石井さんは手応えを感じている。

石井さんは東京で情報発信力を確保することが地元での注目度向上につながると考え、「東京からの逆輸入」を目標に掲げ、東京市場の開拓に取り組んできた。シャープとの連携に踏み切ったのも、その文脈での判断だった。埼玉県外での売上高比率は社長就任時の1割から上昇し、3割を占めるまでになった。東京でのイベントには、声がかかれば積極的に参加している。

10月下旬には東京・新木場で開かれたハロウィーンのダンスパーティーにブースを出した。「日本酒をそのまま出せそうなイベントでもなかったので、ソーダ割りを『サムライ・ハイボール』などと名づけて売りました。樽(たる)から酒を振る舞うパフォーマンスもやりました」。外国人客からは好評だったが、日本人の若者の反応は鈍かったという。

「若者の日本酒に対する抵抗感は想像以上に強いですね」。日本酒を飲まない層をどう引き込むか。「ハロウィーンでビールやワインが似合って日本酒が似合わない理由はありません」。日本酒のイメージを転換するために、日夜、知恵を絞っている。

昭和初期の建物という旧事務所 洋館風に見えるのは増築部分
石井酒造は東武鉄道日光線幸手駅から徒歩約15分。江戸時代、日光御成道と日光道中(日光街道)が合流する宿場町として、幸手宿は栄えた。権現堂堤はサクラの名所として知られる。埼玉県北東部はコメどころとして知られ、幸手は幕府献上米「白目米」の産地だった。石井酒造は今も白目米を原料にした酒を醸造している。

(アリシス 長田正)

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