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石井さんは現在は経営に専念しているという

純米酒 豊明の原料米はさけ武蔵。埼玉県農林総合研究センターが開発した酒造好適米だ。「さけ武蔵は大粒で心白(コメの中心部分)が大きく、軟らかいコメです。高精白(高い比率でコメを削る)には向かない、と思っています。一方で味わいが出やすい特徴もあります」。純米酒 豊明が芳醇で濃厚なのはコメの特性を生かした結果でもある。

そのさけ武蔵を巡って石井さんたちは昨年度、冒険をした。全国新酒鑑評会に出品する酒の原料にさけ武蔵を採用したのだ。出品酒は大吟醸だから精米歩合(コメを削った残りの比率)は50%以下と定められている。心白が大きく削りに向かないうえ、味わいが出やすいさけ武蔵を使い、醸造工程でアルコールを添加しない純米酒で、あえて鑑評会に挑んだ。

「山田錦を使って出品することにワクワクしないんです。みんなやってることですから。しかしもし、さけ武蔵で金賞が取れたら、と考えるとドキドキするんですよね。誰もやったことのないことですから」。出品酒の9割がたは山田錦を使っている。平成28酒造年度(2016年秋~17年冬)には石井酒造も兵庫県産山田錦で造り金賞を獲得している。

食品スーパーの駐車場に面した売店

なぜさけ武蔵にこだわるのか。「福島でも埼玉でもどこの蔵でも、原料米は兵庫県産山田錦。理由は鑑評会の審査に通る酒を造りやすいからです。それって、地酒の蔵としてどうかな、と疑問を感じていました。造りにくくても自分たちのアイデンティティーを主張できる酒を出品したいと考えるようになりました」

さけ武蔵は幸手市内の1軒の農家から調達している。「ワインでいうテロワールのような地産へのこだわり、農家との連携のストーリーが共感を得やすいのだと思うんです」。農家の顔が見えると「酒造りの気合が違う」とも。

さけ武蔵で出品酒を造るために、石井さんは醸造責任者らと勝機を探った。当然、麹(こうじ)菌も酵母も前年とは一新する。例えば酵母は日本醸造協会が頒布する「きょうかい1901」にした。「出品酒の多くで使われる、華やかな香りの1801より酸度が少し出るタイプです。醸造アルコールを添加しない純米にする分、味わいが濃くなると予測し、酸度を上げてキレ感を出す、という手を打ちました」

売店の人気商品、酒粕の袋詰め作業

醸造過程でもさまざまな仮説を立て、逆算する形で対策を講じた。しかし結果は、賞を逃した。「撃沈でした。山田錦というコメの偉大さを改めて知らされた気がします。それでも挑戦の過程が次の土台になると考え、今年度の作戦を練っているところです」。酵母を2種類、ブレンドするなど、仮説と実験を繰り返しているという。

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