ズボン職人とシャツ職人、スーツの目のつけどころ
「隣の畑の匠」を魅せるスーツ2018(下)
口には出さないけれど、心の中では敬服……優れた職人どうしには、そんな密かなシンパシーがある。それは作るモノが違ってもしかり。2018年の終わり、照れる彼らに"ここには惚れた"を告白してもらった。
SUITS LOVED BY ARTISANS 03
上:五十嵐 徹(トラウザーズ職人/五十嵐トラウザーズ)
「ビスポークのムードを感じさせる、非常に高精度なメイド・トゥ・メジャー」
下:五十嵐裕基(レクトゥール)
「本当にご満足いただくため細かなリクエストにもお応えします」
日本だけでなくアジアでのトランクショーでも大人気。トラウザーズ職人の星・五十嵐 徹氏だが、実は彼の兄もテーラーを営んでいる。「兄はあえてビスポークではなく、メイド・トゥ・メジャーを柱に勝負しています。ですが、フィッティングの精度が高く、オプションで仮縫いも付けられます。仕立てのムードもビスポークのそれを上手く盛り込んでいて、職人目線で見てもいい雰囲気ですね」(徹さん)
「もともとセレクトショップの販売員をしていて、色々な服に触れてきました。中でもナポリのビスポークスーツが好きで、その雰囲気を入門価格から体験いただけるよう、苦心して開発したのが今のハウスモデルです。通常MTMでは難しい細かな調整も、可能な限りお応えするようにしています。小さなテーラーですが、だからこそお客様のご要望に最大限沿うことができます。オーダーは初めてという方も、是非お気軽にご予約いただきたいですね」(裕基さん)
〈 スーツの見どころはココ 〉
ビスポークムードなフロントダーツ
前身頃のダーツは片倒しにしたうえでAMFステッチをかけている。ハンドクラフト的な温もりを感じさせる意匠で、ビスポーク的な雰囲気に。
ふわっと柔らかいナポリ的仕立て
肩回りは非常に軽く柔らか。芯地は極薄のものを用い、ゆき綿も省いている。ふんわりとした袖付けもナポリ的だ。ゴージは低めが基本スタイル。
SUITS LOVED BY ARTISANS 04
右:山神正則( シャツ職人/山神シャツ )
「彼の仕事には嘘がない。自分に厳しい、誠実な仕事ぶりには脱帽です」
左:山上佳彦( 山の上テーラリング )
「師匠の教えを守り、ひとつひとつの工程を丁寧に積み重ねています」
日本では希少なビスポークシャツ職人として獅子奮迅の活躍を見せる山神氏。そんな気鋭職人も、山上氏の仕事ぶりには舌を巻いたという。「彼の師匠の大島崇照さんとは旧知の仲で、山上さんも修業時代から知っていました。今年6月に山の上テーラリングとして始動しましたが、師匠譲りの美しい仕立てですね。頑固な職人気質で、決して仕事に妥協しません。若手ですが頼もしいテーラーです」(山神さん)
「師匠は非常にクオリティに厳しい人で、一方"スタイルがないのがスタイル"と標榜する柔軟な人でもあります。私もその姿勢を受け継ぎ、今はひとつひとつの仕事を丁寧に積み重ねています。ただ、武道で"守破離"という言葉があるように、私もいつか師匠が教えてくれた型を破り、離れる日がくるかもしれません。日々、自問自答を繰り返しながら、仕立ての技と感性を磨いているところですね」(山上さん)
〈 スーツの見どころはココ 〉
上襟が大きくローゴージ
上襟が大きく、ゴージの角度がグッと下がった襟周りが個性的。肩パッドは用いず、胸の芯地を肩まで回して軽く柔らかに仕立てているそうだ。
袖のボタンは3つがスタイル
イタリアやイギリスのスーツは袖ボタン4つが一般的だが、山上氏は3つが定番。また身頃のポケットはフラップなしの両玉縁を基本としている。
※表示価格は税抜きです。
撮影/筒井義昭、若林武志、中西一朗、恩田拓治、荒金篤史、手塚 優、TAKA MAYUMI、竹内裕二(BALLPARK)、久保田彩子 スタイリング/武内雅英(CODE)、吉野 誠、森岡 弘、宮崎 司(CODE) ヘアメイク/MASAYUKI(The VOICE)、山田久美子、TOYO(bello) 文/秦 大輔、安岡将文、吉田巌(十万馬力) 構成・文/小曽根広光、伊澤一臣 撮影協力/EASE
[MEN'S EX 2018年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。