働き方で異なる離婚後の年金分割 子の遺族年金も注意
知って得するお金のギモン
「離婚したら夫の年金が半分もらえるんですって。いくらかしら?」。先日、電車内でアラフォー女性たちのおしゃべりが耳に飛び込んできました。確かに、離婚した夫婦で年金を分ける仕組みはあります。でも、「半分じゃないし、もらえるわけでもないのよ!」と、私は思わず心の中で叫んでしまいました。
分割対象は厚生年金のみ 妻から夫に分けることも
婚姻期間中の年金を夫婦で分ける、「年金分割」という制度があります。女性たちは「年金がもらえる」と話していましたが、分けるのは年金計算の基になる「厚生年金保険料の納付記録」です。制度を理解するには4つのポイントがあります。
(1)分割対象は厚生年金のみ
公的年金は国民年金(基礎年金)と厚生年金の2種類。自営業者やフリーランスは国民年金のみ、会社員や公務員は両方に加入しますが、分割対象は厚生年金だけ。夫婦共に自営業なら分割する年金はありません。妻が会社員、夫が自営業の共働き夫婦なら、妻の厚生年金を夫に分けることになります。多いほうから少ないほうへの分割なので、夫婦共に会社員なら妻から夫に分けるケースもあります。
(2)分割する記録は婚姻期間のみ
独身時代や離婚後の記録は対象外です。
(3)分割は半分とは限らない
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」という方法があります。合意分割は、分割割合(上限50%)を夫婦で話し合って決めます。決着しないときは家庭裁判所に申し立てて、調停または審判で決めます。
3号分割は、会社員の妻で専業主婦のような、厚生年金加入者に扶養される配偶者(第3号被保険者)が使える分割方法です。扶養されていた期間(*1)の相手方の厚生年金記録を分割して、半分を受け取れます。夫婦間の合意は不要。分割したいと思えば、扶養されていた側が必要書類を年金事務所に持参すれば、ひとりで手続きできます。
(4)「情報通知書」の請求が必要
分割手続きに必要な情報を得るには、「年金分割のための情報通知書」という書類を請求します。離婚成立前なら相手方に知られることなく請求できるので、離婚を考えているなら手に入れておきましょう(*2)。
離婚が成立すると力が抜けて年金分割の手続きを忘れがち。合意分割も3号分割も、離婚成立翌日から2年以内に年金事務所での手続きが必要です。
*1 2008年4月1日以降の国民年金の第3号被保険者(厚生年金の被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の年収130万円未満の妻または夫)だった期間。 *2 最寄りの年金事務所で請求する。
元夫が亡くなったら遺族年金はどうなる?
離婚が成立すると、夫婦関係は消滅します。元夫が亡くなっても元妻に遺族年金は出ません。ですが、夫婦に子供がいて元夫が再婚していない、または再婚していても新しい家庭に子供がいないと、子供に遺族年金が支給される(*3)ことがあります。
離婚後も、元夫と子供の親子関係は続いているという理由からですが、支給には父と子の間に「生計維持関係」があったことが必要です。養育費が継続して振り込まれていたかなど、経済的支援の有無を確認します。
父親が会社員だった場合、子供1人なら、国民年金から「遺族基礎年金」が年間約78万円、厚生年金から父親の加入実績に応じて「遺族厚生年金(*4)」が支給されます。ただし、遺族基礎年金は「生計を同じくする子供の母親がいる」場合、つまり、母親が子供を養っている間は受け取れません。
離婚は、老後の収入の柱である年金にも影響を与えます。決断の際は老後も含めた生活プランを考えておきたいものです。
*3 子供が18歳になる年の3月まで。 *4 父親の厚生年金加入期間の平均月収が30万円の場合、年間約37万円。
今月の回答者
社会保険労務士・FP。望月FP社会保険労務士事務所代表。大学卒業後、生命保険会社、独立系FP会社を経て独立。公的年金や保険、住宅ローン、ライフプランニングなどの個人相談ほか、セミナー講師としても活躍。
[日経ウーマン 2018年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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