日経トレンディネット

「土偶 縄文のビーナス」(茅野市尖石縄文考古館蔵、写真提供/山岡監督)

また、人間は何か目に見えない力や存在を表現するとき、ヒトガタを選ぶことはよくあるのではないか、と指摘する。

「目に見えないものを他者に伝えイメージを共有するため、話し手が自由に具体的な属性を与えるということはこれまでもあった。座敷わらしが、年齢も性別も人によってブレがあるのはそのせい。縄文土偶も性別不詳のものが多く具象化が重要ではなかった」(中村助教)

エヴァンゲリオンがヒトガタであらねばならなかった理由も同じだという。「人類を救うという特別な存在は、機能性だけを考えれば人の形である必要はない。ただヒトガタで表現したことで感情移入ができてヒットした。時代や文化で違うだけで、人間の普遍的な思考のメカニズムが共通している」(中村助教)。

「土偶 縄文の女神」(山形県立博物館蔵、写真提供/山岡監督)

さらに中村助教は、土器や土偶のデザインの「アソビやすさ」が現在の人気につながっているともみている。中村助教によると90年代後半から2000年代初めにかけても国内外で縄文文化が注目されたという。09年の「国宝 土偶展」も、英・大英博物館で同年に開催され好評を博した「THE POWER OF DOGU」の帰国展だった。

「国内では三内丸山遺跡(青森県)が2000年に新たに国の特別史跡に指定され、当時の景気の落ち込みから自分たちを奮い立たせるため、縄文の『すごさ』にスポットライトが当てられた。海外ではEUの歴史的拡大期でアイデンティティーを求めてローカルな文化が注目され、その流れのなかで日本独特の縄文文化がフィーチャーされた。とにかく『超絶技巧のすごさ』が取り上げられた」(中村助教)

三内丸山遺跡(写真提供/山岡監督)

だが、現在の縄文人気は技巧ではなく、デザインに着目する人が多いという。「今も先行き不透明さゆえ若者が安定志向になり、冒険心を失い、社会には閉塞感が漂うが、『すごさ』ではなくデザインを使ったポップカルチャーでの遊びが活発になっている」(中村助教)という。

「新しいものを探したら数千年前の縄文にあった、という感じ。縄文には意外とモダンなものが多いのかもしれない」(中村助教)

子供の縄文人気はEテレから

一方、アニメーションから縄文を知る子供たちもいる。映像作家の井上涼氏が手がけるアニメーションと音楽で、世界の美術作品を紹介するNHK Eテレの人気番組『びじゅチューン!』では、火焔型土器や中空土偶をテーマにした作品がある。

『縄文展』と同時期に東京国立博物館で開催された、親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館』では、火焔型土器のレプリカが展示された。「なりきり日本美術館に訪れた子供たちが、そのまま縄文展を見に行くという流れも多かった」(東京国立博物館広報室)。

「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館」の関連展示として火焔型土器のレプリカによるハンズオンを行った。「作品世界に没入してみると、美術とさらに仲良くなれるということを子どもたちに実感してほしかった」(東京国立博物館博物館教育課)

文字を持たなかった時代に、高い技術力で独特の造形美を生み出した縄文人。縄文の、特に土器の美に衝撃を受けた岡本太郎は著書「日本の伝統」で、「これでもかこれでもかと、執拗にせまる緊張感。しかも純粋に透(とお)った神経のするどさ」と評し、「まるで異質で、ただちにわれわれと結びつけては考えらえない」と、現代に生きる日本人との美に対する観念の断絶を指摘した。

かわいいと感じる人、すごさ、恐れを感じ取る人、感情移入する人。さらには、アソビ心を刺激される人――。言葉を超えた根源的な何かを求めて、人々は縄文に吸い寄せられ始めている。

「あの原始的なたくましさ、純粋さにふれ、今日瞬間瞬間に失いつつある人間の根源的な情熱を呼びさまし、とりかえすならば、新しい日本の伝統がより豪快不敵な表情をもって受けつがれるのです」(岡本太郎『日本の伝統』[光文社知恵の森文庫]より)

(日経トレンディネット 北川雅恵)

[日経トレンディネット 2018年10月19日付の記事を再構成]

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