ハエのさなぎ化石にハチ 太古の寄生をリアルに再現

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/11/2
ナショナルジオグラフィック日本版

化石になった米粒大のハエのさなぎから、古代の寄生バチが見つかった。研究チームは最新技術を使って、リアルな寄生バチの姿を再現。繊細な羽や背中の毛まで再現された驚きの映像とともに、今回見つかった古代の寄生バチを紹介しよう。

見つかった寄生バチの中には未知の種が4つ含まれていた。現代の寄生バチと似ている種もあるが、全く異なる種もあるため、2つの新しい属がつくられた。研究成果は2018年8月28日付けで学術誌「Nature」に発表されている。

研究を率いたのは、ドイツ、カールスルーエ工科大学の昆虫学者トーマス・バン・デ・カンプ氏。バン・デ・カンプ氏は1つ目の属を「ゼノモーフィア(Xenomorphia)」と名づけた。語源は、映画『エイリアン』に登場する、昆虫のような体を持ち、人に寄生するモンスターだ。

1944年、スイスの昆虫学者エデュアルド・ハントシンがフランスの同じ場所で、ハエのさなぎの中に寄生虫のようなシルエットが見えることに気づいた。寄生バチの化石が発見されたという唯一の記録だった。

バン・デ・カンプ氏らはX線マイクロトモグラフィーという手法を用い、さなぎの化石を破壊することなく、極薄の断面画像を得た。そして、断面画像を再構成し、驚くほど詳細な3次元モデルを完成させたのだ。

寄生バチはさなぎの中で体を丸めており、触角は体の左右に沿わせた状態で、背中の毛は立っていた。「とてもくっきり見えました。画面越しに私の目を見つめていたのです」とバン・デ・カンプ氏は振り返る。

この発見に気を良くしたバン・デ・カンプ氏らは、一帯で発見されたさなぎの化石をすべて分析することにした。スイスのバーゼル自然史博物館とスウェーデンの自然歴史博物館から、合わせて1510個の小さな化石が集まった。

バン・デ・カンプ氏らは、寄生バチがさなぎに穴を開けて、卵を産みつけ、卵からかえった幼虫がハエの体を食べたと考えている。寄生バチはさなぎの中で羽化し、成虫となった。バン・デ・カンプ氏によれば、多くの寄生バチがさなぎの中で羽化していたが、水害などで外に出る前に命を落としたと考えている。

寄生虫の化石は、これまでも見つかっている。しかし、古代の寄生虫が宿主の中から見つかるのは極めて珍しい、と米オレゴン州立大学の古生物学者ジョージ・ポイナー氏は語っている。

[ナショナル ジオグラフィック 2018年8月30日付記事を再構成]

詳しい記事はこちら