産む前に「復職後」示す JICAのフェアな女性登用

日経DUAL

出産後の女性総合職に期待役割を明確に伝えることの必要性

今は出産を控えた女性職員に人事部が説明をする。見せるのは組織内の人口構成である。女性職員は出産後も就業を継続する。つまり、自分の後輩も出産後に復職してくる。従って、復帰後しばらくは女性を補助的な業務に就けることができるが、長期的にはキャリアトラックに戻る必要がある。

大事なのは、こうした情報を「産む前」に伝えることだ。それも、できるだけ早い時期に配偶者同席のもと、伝えることに意味がある。組織は単に復職することではなく「キャリア」を継続することを求めていること。そのためには、ワンオペ育児ではなく夫婦で協力して育児をする必要があること。夫婦共に育児とキャリアをあきらめないため、お互いが真の意味で支えあうこと――。

平均的な日本の企業社会と比べると進んでいるように見えるJICAの人材マネジメントだが、課題はある。例えば、諸手当。女性職員が単身子連れで海外赴任した際、月額2万~10万円に上るシッター代への補助はない。現地滞在中に長期出張が必要になったらどうするのか。また、治安面で緊急事態が発生したらどうするのか。JICA職員の赴任地は途上国や中進国であるため、こうした心配も絶えない。

働き方の実態が多様化する中、専業主婦の配偶者がいる男性を想定した人事制度が追い付かなくなっているのは、JICAに限った話ではない。国際機関や欧米先進国の大使館では、夫婦どちらかが海外赴任する際、もう片方のために仕事を用意することも珍しくない。夫婦または同性同士のパートナーが、ともにキャリアを持っている前提で制度設計がなされている。

現時点で、筆者の知る限り、出産後の女性総合職に期待役割を明確に伝える日本の雇用主は、まだ、多くない。JICAが子育て世代の職員に明確なメッセージを送っていることは、注目すべきと言える。抽象的な女性活躍や管理職登用の数値目標を掲げるだけで、女性リーダーは増えない。その仕事で期待されるもの、キャリアの道筋をはっきりと伝えること。実現にはフェアな職場環境と対等な夫婦関係が必要であることを教えてくれる貴重な事例だ。

ちょうど10年前、アメリカの共働き子育て夫婦の事例を取材して本にした。専門職・管理職として働きながら子育てしている女性とその配偶者にインタビューしていると、男女で柔軟に役割交換する例が多いことに気づいた。母親だけでなく父親も、育休や時短勤務を取ったり、仕事量をセーブしたりする。ワンオペ育児問題を超えた数歩先に、ワーキングマザーが活躍できる環境がある。今回の取材で、日本の組織でもそれが可能と分かったことがとても嬉しい。

治部れんげ
1997年、一橋大学法学部卒。日経BP社にて経済誌記者。2006~07年、ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年、一橋大学経営学修士課程修了。日経DUAL、Yahoo!ニュース個人、東洋経済オンライン、Business Insider等にダイバーシティ経営、男女のワークライフバランス、ジェンダー平等教育について執筆。現在、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京大学情報学環客員研究員。日本政府主催の国際女性会議WAW!国内アドバイザー。東京都男女平等参画審議会委員(第5期)。公益財団法人ジョイセフ理事。一般財団法人女性労働協会評議員。著書に『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)など。2児の母。

[日経DUAL2018年9月14日付けの掲載記事を基に再構成]

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