産む前に「復職後」示す JICAのフェアな女性登用

日経DUAL

人口構成を見ると、現在の40~50代は男性が多いが、30~40代は男女間の人数の差が少なくなる。JICA職員同士の結婚も多く、配偶者の海外勤務と合わせて出産し、育休を取得するケースも珍しくない。人材マネジメントの特徴は「男女を問わず仕事をアサインすること。管理職登用の条件に在外勤務経験があること」(福澤さん)である。前出の萱島さんは30年以上前に入職した際、予想していた「お茶くみ」がなかったことに驚いたそうだ。「当時から男女平等でした」と話す。

通常、国内で2年ずつ、2つの部署を経験した後、5年目に海外赴任する。海外勤務は概ね27~30代前半となり、妊娠・出産などのライフイベントと重なりやすい。組織内では、近年、結婚年齢が早まっているような印象があるそうだ。育児とキャリアは、もはや二者択一ではなく、両方手に入れるものになりつつある。

男性職員も自分のキャリアと家族を大事に

もともと、1~2歳の子どもがいる人の海外出張は珍しくない。小学3年生以下の子どもを伴っての海外勤務は、ベトナム、マレーシア、セネガル、ケニア、パキスタン、メキシコと世界各国に及ぶ。人事部の福澤さん自身、JICA職員同士の結婚で育休中にパキスタンに在住したことがある。

カンボジアに3年3カ月母子赴任した木梨陽子さん。赴任時お子さんは5歳。民間企業勤務の夫は妻のキャリアを後押しし、年に数回の休暇は日本・カンボジアで家族の時間を過ごした

女性総合職が多いこと、結婚・出産とキャリアの両方を求める人が男女共に少なくないことは、組織と働く人の家庭の双方に男女平等化をもたらす。それは女性活躍のため、というより「組織を回していくため、それが切実に必要だったから」(福澤さん)である。

その結果、男性の海外赴任に女性がついていくだけでない、多様な働き方が広まった。例えばある女性職員は20代で出産。彼女が海外赴任した際は、夫が仕事を辞めて付いていき、現地で仕事を見つけた。海外留学した際は、再び夫が付いていったという。別の夫婦の場合には、妻の海外赴任に夫が休職して付いていった。その後、この男性は管理職に昇進している。

前ページ写真の湯本さんの夫でJICAを休職し、メキシコで「主夫」をしている宇多川さん。 お弁当作りも手掛ける

冒頭に紹介した萱島さんのように、子連れ単身赴任も珍しくない。永井さんのように配偶者のライフイベントと海外赴任のタイミングを合わせたり、共働き子育て生活を安定させるため、勤務地を限定した働き方を選んだりすることもある。重要なのは、配偶者の仕事に合わせて休みを取ったり仕事のやり方を調整したりするのが、女性だけではないことだ。男性も必要に応じて休みを取り、妻のキャリアを支える。

「男性職員も、自分のキャリアを大事に思うからこそ、家族も大事にする、という価値観を持つ人が多い」(人事部次長の吉成安恵さん)

国際協力という職務上、キャリアのどこかに海外赴任があることを、総合職なら意識している。中には留学する人もいる。夫婦がお互いに「次は自分が休みを取る」「ならばその次は自分がサポートに回る」と考えて調整することが多い。

「資生堂ショック」の背景にあった問題点

話を聞いて思い出したのは、数年前に起きた「資生堂ショック」のことである。女性活用の先進企業として知られる資生堂で、子育て中の女性社員が増えたことから、美容部員の勤務シフトに支障が出てきた。夜間や土日に独身や子どものいない女性だけが働くようになると、不公平感が募る。結果、会社側は子どもを持つ女性にも、夜間休日のシフトに入ってほしいと要請することになった。

これを「ショック」と呼んで子育て女性に同情する論調は、感情的には理解できるが、それでは解決にならない。女性社員が増えていき、出産で辞めなくなれば、こうした事態が起きることは容易に予想できた。根本的な問題は、仕事で求められることと報酬の関係が不明瞭であったことである。

もし、夜間や土日の勤務が必須であるにもかかわらず、その時間帯に働ける人が足りないなら、給与体系を変更して夜間・休日に割増手当をつけるのが筋だろう。これは経済の論理である。もう一つ、社会責任の論理を言うなら、本当に夜間・休日の営業が必要なのか、考えてみることも必要だ。消費者にとっての便利と労働者が家族と過ごす権利がトレードオフになっている場合、どちらを優先するか、大いに議論の余地がある。

いずれにしても、組織内で女性が一定割合を超え、出産・育児で辞めなくなったとき、資生堂と同種の問題は、他の組織でも高い確率で起きるはずだ。JICAでも似たような問題が起き、人材マネジメントが変わっていった、という。

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