最新技術で蘇った15世紀の地図 コロンブスが利用か

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/10/27

1492年10月12日に西インド諸島に上陸した後、コロンブスは日本を探し始めた。このときの彼は自分がアジアへの航路を見つけたと信じていたからだ。コロンブスがそう思い込んだのは、マルテルスの地図に示されている欧州・日本間の距離とほぼ同程度の距離を、自分が航海してきたからだと、ヴァン・ドゥーザー氏は言う。

通常の光(左)では見えないが、マルチスペクトル画像処理により、ここにはパノッティという、巨大な耳を持つ半人間の怪物についての記述があることが判明した(IMAGES BY LAZARUS PROJECT / MEGAVISION / RIT / EMEL、 COURTESY OF THE BEINECKE LIBRARY、 YALE UNIVERSITY)

後年の航海で、コロンブスが中南米を海岸沿いに南下していったことを考えると、彼は自分がマルテルスの地図に描かれている通りのアジアの海岸を南下していると思っていたと推察できる。

タイムカプセルの修復

マルテルスの地図のサイズは、縦1メートル、横1.8メートルほどだ。これほど大きな地図は贅沢品で、おそらくは貴族からの依頼で作られたものと思われるが、その貴族が誰かを示す紋章や献辞は見当たらない。地図は1962年に匿名の人物によって米エール大学に寄贈され、今も大学内のバイネキ稀覯本・手稿図書館に保管されている。

時間の経過とともに、地図に記された文字の大半は背景と見分けがつかないほどに色あせ、判別できなくなっていた。しかし2014年、全米人文科学基金の助成金を得たヴァン・ドゥーザー氏が、協力者らと共に、マルチスペクトル画像処理という技術を用いて隠された文字の解明に着手した。

この手法は、異なる光の波長を用いて地図の写真を何百枚も撮影・処理しながら、部分ごとに文字が最も読みやすい波長の組み合わせを探っていくというものだ。

マルチスペクトル画像処理によって、地図のこの部分には、アジア北部の海岸に近い洞窟にはヤマアラシが住んでおり、狩りにやって来る人間や犬に自分のトゲを投げつけてくると書かれていることがわかった(IMAGES BY LAZARUS PROJECT / MEGAVISION / RIT / EMEL、 COURTESY OF THE BEINECKE LIBRARY、 YALE UNIVERSITY)

地図に記された説明文の大半は、その地域やそこに住む生物に関するものになっている。「ここには『ヒポポデス』がいる。人間のような姿だが、馬の脚を持つ」。中央アジアの上に記されている、以前は読めなかったテキストにはそう書かれている。また別のテキストは、「人間に似ている怪物で、その耳は体全体を覆うほど大きい」と読める。こうした想像上の生き物の多くは、古代ギリシャ人が記したテキストにその起源を辿ることができる。

驚くべき発見があったのはアフリカの内陸部だと、ヴァン・ドゥーザー氏は言う。マルテルスはアフリカの地図に詳細な情報や地名を数多く書き込んでおり、その情報源はどうやら1441年にフィレンツェを訪れたエチオピアの代表団だったものと思われる。15世紀に作られたヨーロッパの地図の中に、アフリカの地理についてこれほど多くの、しかもヨーロッパ人の探検家ではなく、現地のアフリカ人から得た情報を記しているものはほかにない。

マルチスペクトル画像処理により、マルテルスの地図ではアフリカ南部の山、川、町について驚くほど詳細な情報が記されていることが判明した(IMAGES BY LAZARUS PROJECT / MEGAVISION / RIT / EMEL、 COURTESY OF THE BEINECKE LIBRARY、 YALE UNIVERSITY)

マルチスペクトル画像処理による調査ではまた、マルテルスの地図が、1492年にマルティン・ベハイムが製作した現存最古の地球儀、および1507年にマルティン・ヴァルトゼーミュラーが製作した、「アメリカ」という名を初めて用いた世界地図において、主要な情報源となっていたことも明らかになった。

ふたつの地図を比較したヴァン・ドゥーザー氏は、ヴァルトゼーミュラーが、マルテルスの地図のテキストの多くをそのまま使いまわしていたことを発見した。こうしたやり方は当時としてはごく一般的なもので、マルテルスも自身の地図にある海の怪物の描写を、1491年に出版された百科事典から書き写していることがわかっている。

ただマルテルスとヴァルトゼーミュラーの地図には、はっきりした違いがあった。マルテルスはヨーロッパとアフリカを地図の左端付近に描き、その向こうには海しか描いていない。一方、ヴァルトゼーミュラーの地図はさらに西へ伸び、大西洋の向こう側には新たな陸地が描かれていた。ヴァルトゼーミュラーの地図が製作されたのは16年後だが、その間に世界の姿は大きく変わってしまっていたわけだ。

(文 GREG MILLER、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年10月11日付]

ナショジオメルマガ
ナショジオメルマガ