公平な大学入試とは何か
池上彰の大岡山通信 若者たちへ
東京医科大学が入試選抜で女子を差別していたことが明らかになったのに続いて、昭和大学医学部も現役や一浪までの受験生に加点していたことを認めました。こんな条件があると知っていたら受けなかったのに、という受験生もいることでしょう。
■米ハーバード大入試をめぐる裁判に
大学入試は、その大学で学ぶにふさわしい人材を選ぶプロセスである以上、一般論としては独自の選抜基準があっていいのですが、その基準をオープンにしていなかったため、納得できない人も出ています。
入試の選抜基準を明らかにすべきだ。この動きは、アメリカの名門ハーバード大学でも起きています。選抜基準を明らかにするように求めた裁判がボストンの連邦裁判所で始まったのです。
アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の10月12日電子版によると、訴えた団体は、大学がアジア系学生が不利になるような取り扱いをしていたと主張し、選抜基準を明らかにするとともに、人種で差別をしないように求めています。
人種差別というと、黒人差別をイメージする人も多いと思いますが、アメリカの多くの大学では、黒人の入学比率が低くならないように得点調整をしています。黒人を優遇しているのです。長く差別されてきた歴史を持つために学力が十分つかなかったというハンディを持つ黒人学生を救済する仕組みで、「アファーマティブ・アクション」(積極的差別解消策)と呼ばれます。この対象には黒人ばかりでなく少数民族や女性も含まれます。
しかし、その結果、「本来なら合格できたのに落ちた」と不満を持つ学生が出てきています。親が教育熱心なアジア系学生の成績は概して高いのですが、合格比率はそれほど高くありません。これは人種で差別して得点調整をしているのではないか。それは不公平だという主張です。
■米名門大は「包括的手法」を採用
ハーバード大学に限らず、名門といわれるアメリカの大学の多くが、選抜に当たり、「包括的手法」を採用しています。これは、高校の学業成績と大学入試の成績だけでなく、さまざまな分野の活動や個人的資質なども考慮するのです。
となると、学業成績以外のところで、黒人受験生を優遇したり、スポーツに秀でている生徒や大口の寄付をしてくれた人の親族、あるいは卒業生の子弟などを優先したりしているのではないか。
こういう疑惑がつきまとってきましたが、大学は一切基準を明らかにしてきませんでした。
そういえば、歴代のアメリカ大統領の中には、名門大学に入学できたのが不思議に思える人が……。
それはともかく、多くの大学が多様性を大事にしています。成績だけで選抜をしたら、白人とアジア系学生ばかりになるのではないか。多種多様な学生がいてこそ、その大学に入学した学生たちが切磋琢磨(せっさたくま)して成長できる。こう考える大学は、「入試選抜が不公平だ」という主張を、これまで受け入れようとはしませんでした。
今回の裁判について、アメリカ政府の司法省は、原告を支持する声明を出しています。アファーマティブ・アクションをやめれば、アジア系ばかりでなく、白人学生の比率も高まるとみられています。白人至上主義者から支持されるトランプ政権ならではの動きでしょう。
大学が入試選抜に当たって、独自の基準を設けることが、アメリカは女子や少数派を優遇することなのに、日本は現役や男子学生が多くなるように細工する。方向性が大きく異なります。
[日経電子版2018年10月22日付]
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