社員がワクワクしながら働くことが大事という

掛け声は「楽しく働こう!」

白河 先生から見て、企業が社員の幸福度を上げるためにやるべき行動ってどんなものですか?

前野 そもそも「生産性を上げろ」なんて言わないことでしょうね。生産性を上げるために無理をさせてしまうと、ストレスが増してしまうのですから。生産性はあくまで結果でしかなく、最初の掛け声はやっぱり「楽しく働こう!」ですよ。たとえ無駄があってもいいから、生産性のことは忘れてとにかく楽しく働いてみる。すると、創造性が3倍になり、生産性は1.3倍になるわけですから、いつの間にか10時間かかっていた仕事が7時間になっちゃうわけです。

白河 たしかに順番をよく考えないといけないんですね。

前野 短期的な生産性だけを目指していてはダメ。詰め込むと短期的には業績が上がるかもしれないけれど、そこに負荷が生じていたら、結局その後に長期休暇を取らなければいけなかったりして長期的には生産性が下がることだってあり得ますよね。もしも「これまでの働き方改革は短期視点に偏っていた」と気づいたとしたら、今からでも遅くないので180度方向転換したほうがいいと思いますね。

白河 サイボウズ社長の青野慶久さんも「仕事が楽しくないのはなぜだろう?」と提起されていましたが、やはり「楽しく仕事をする」を起点にすることが重要なんですね。

前野 そうです。やっぱりワクワクしながら働くことが大事。片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんが「ときめかないものは捨てましょう」とおっしゃっていたのと同じで「ときめかない仕事は捨てましょう」と言いたいです(笑)。

白河 本当に捨てちゃっていいんですか(笑)? すごく面倒な仕事もありますけれど。私の場合、マイナンバーの書類の提出とかすごく嫌いです。

前野 あれも国がしっかりと投資して不正が生じないシステムを整備すれば、アメリカのソーシャルセキュリティーナンバーのように国民全員が特に個人情報だと気にせずに取り扱え、無駄が省けるわけですよね。要するに、「人を疑うこと」が前提になっている社会は生産性を落とすんです。

白河 ああ、確かに。テレワークを導入すると部下がサボるんじゃないか、と疑心暗鬼になっている上司とかいますよね。

前野 僕から言わせれば、その上司の心の中に「サボりたい」気持ちがあるだけ。究極的には人を信じるしかないんですよね。企業訪問を続けていますが、やはり社員が幸せな会社というのは、トップが現場に権限を委譲して完全に任せているところが多いですよね。「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」を禁止した未来工業さんしかり。「かんてんぱぱ」で有名な長野県の伊那食品工業さんなんて、経費精算は領収書をバサーっと出すだけで承認されちゃうんですよね。社員を徹底的に信じているし、信頼に基づく経営であることをしっかり教育しているから、社員も皆いい人なんですよ。

白河 伊那食品工業さんは私も見学に行かせていただいたことがあるのですが、社員一人ひとりが本当に誇りを持って働いているんだなということが伝わってきました。社員の皆さんが清掃しているという敷地もとてもきれいで。他にもモデル企業はありますか?

前野 自動車用のネジを作っている西精工という会社も素晴らしい取り組みをしています。感心したのは毎朝、朝礼に1時間かけて、会社の理念や「自分たちの仕事がどう社会に役立っているか」を共有しているんです。朝礼に1時間って、一見無駄のように感じますが、全然無駄でなくて、「このネジ1本で世界中の車がちゃんと走って、たくさんの人を幸せにしているんだ。俺たちすげー!」ってワクワクしながら働くための原動力になっているんです。形式だけに走ると「朝礼を削減」とかになりがちですが、やはり本質を見失っちゃいけないなと気づかされましたね。

(以下、下編の「きれい事でも… 社員の幸せ考えるのが経営者の役割」に続く。下編では幸福度を上げるために社員自身、管理職や企業はどうすればいいかをお聞きします。)

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 宮本恵理子)

「白河桃子 すごい働き方革命」の記事一覧はこちら