社員の幸福が経営を左右 ときめかない仕事は捨てよう前野隆司慶応義塾大学大学院教授(上)

1986年東京工業大学修士課程修了。キヤノン、慶応義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、08年より大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。17年より慶応義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任(写真:稲垣純也)
1986年東京工業大学修士課程修了。キヤノン、慶応義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、08年より大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。17年より慶応義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任(写真:稲垣純也)

近年の研究の結果によると、幸福な社員は不幸な社員に比べて、創造性や生産性が明らかに高いという。企業はどうすれば社員を幸福にできるのか。日本における「幸福学」の第一人者で、「幸せの経営学」をテーマに企業組織の幸福度を上げるためのコンサルティングも手がける、慶応義塾大学大学院の前野隆司教授に伺いました。

幸せな社員は創造性が3倍高い

白河桃子さん(以下敬称略) 前野先生はキヤノン勤務、ハーバード大客員教授を経て、現在は慶応義塾大学大学院でイノベーション教育の研究に携わっていらっしゃいます。専門領域は企業も注目し始めた「幸福学」。最近、『幸福学×経営学』(内外出版社)という共著も出されました。まずお伺いしたいのは、幸福と生産性の関係について。これまでどんなことが分かってきているのでしょうか?

前野隆司さん(以下敬称略) 国内外でいろんな研究が発表されていて、例えば米カリフォルニア州立大学のリュボミアスキー教授は「幸せな社員は不幸せな社員より生産性が1.3倍高い」というデータを出しています。国内では「ハピネス計測」の技術開発をしている日立製作所の矢野和男さんの研究をはじめ、やはり幸せであることは生産性を30%ほど増やすといわれていますね。また、これも米国の研究ですが、「幸せな社員は不幸せな社員より創造性が3倍高い」という結果も出ています。

白河桃子さん

白河 3倍ってすごいですね。

前野 創造性に差が出るということは、定型作業(ルーティンワーク)ではなく、非定型な創造性を発揮できる仕事でより幸福度が影響するということでしょう。

白河 工場労働者よりも、知的生産に従事するナレッジワーカーが増えている今の時代においては、「社員の幸福度を上げる」ことが、経営者にとってお得だということですね。

前野 ナレッジワーカーは幸せに働かなければ効率的に生産性が上がらないのだと知っておくべきですね。さらに、企業研究会という団体が行った調査によると、「定型作業をしている人より、非定型の仕事をしている人の方が幸せ度が高い」ということが分かりました。やはりこれからは、できるだけ定型作業を人工知能やロボットに置き換えて、人間は非定型作業で創造性を発揮すると、幸せ度も高まり、かつ創造性・生産性も高まっていくのだと思います。

白河 イノベーション経営と社員の幸福度は切っても切れないものだと。そして、仕事の種類そのものを、幸福度を高めるものへとシフトしていったほうがいいということですか?

前野 はい。高度経済成長期はピラミッド型の製造業大企業型の経営が中心で、「とにかく同じ型の冷蔵庫をたくさん作りましょう」という仕事の仕方さえすればもうかったわけです。でも、今は皆テレビも冷蔵庫もすでに持っているのですから、働き方そのものも変えないといけない。

人工知能(AI)の機械学習の世界なんて、たった1週間で主役が変わってしまうほどの猛スピードで業界が動いているんですよ。こんな時代に、ピラミッドのてっぺんから「えー、わが社の今期の方針は~」なんて悠長に言っていると負けてしまいますよね。組織を構成する一人ひとりがいかに創造性を発揮して働くか、という時代に来ているんです。つまり、時代が求める経営の流れと個人の生き方を満たす幸せのあり方が一致し始めてきたということです。

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高度な知識を使う定型作業は通用しない