巨匠ヒューイット 世界5都市でバッハ全曲ピアノ演奏

ヤマハ、河合楽器製作所、スタインウェイなど大手メーカーがしのぎを削る日本のピアノ市場に、ファツィオリは後発ながら高級モデルとして食い込もうとしている。今年はファツィオリジャパン(東京・港)創立10周年記念として「FAZIOLIオンライン・ピアノコンクール」を開催し、10月6~7日の決勝で中川真耶加氏が優勝した。日本市場への攻勢を支える最大の存在が、ファツィオリを愛用しているヒューイット氏だ。

誰の心にも語りかけてくる深い精神性の音楽

――ファツィオリで弾く利点と難しさは何か。

「20年前に初めてファツィオリを弾いたとき、この楽器は自分に演奏の自由を与えてくれるとすぐ気が付いた。弾きやすい機能を持つだけでなく、柔らかい音から力強い音までの音色の幅が非常に大きいと感じた。このピアノならば自分の想像通りに弾ける。ピアニストが創造力を働かせることができれば、このピアノはうまく弾けると確信している」

バッハ「ゴルトベルク変奏曲」を練習するアンジェラ・ヒューイット氏(9月28日、東京都港区のファツィオリジャパン)

「逆にファツィオリを弾くことは挑戦でもある。色彩が豊かすぎるので、ピアニストは何を弾きたいか、事前にはっきりとした構想を持つ必要がある。私自身はファツィオリを弾き続けて退屈することはない」

――現代にバッハを聴く効用はどこにあるか。

「精神性のレベルでバッハほど深い音楽はない。魂に響いてくる音楽だ。バッハ作品のコンサートを聴いた人からよく聞くのは、コンサートの前後では自分がまるで違った人間のように感じるということだ。バッハ作品を聴き終わって会場から出てくると、日常の様々な問題を忘れ、慰めや心の安らぎを感じるという。マジックというべき魅力があると思う」

――なぜそんな効用が生まれるのか。

「バッハの音楽は抽象的だ。ほかの作曲家の曲のように明確なストーリーを語っているわけではない。しかしそこには彼のあつい信仰と、その信仰への喜びが表現されている。だから年齢や国籍、教育レベル、バックグラウンドにかかわらず、誰の心にも語りかけてくる。ジャズのミュージシャンたちもバッハ作品を好んで弾いている。あらゆるジャンルの様々な楽器で演奏されることを考えると、誰にも訴えることができる音楽なのだと思う」

世界5都市で順次鳴るグローバル時代のバッハ

インタビューは9月28日、紀尾井ホール(東京・千代田)での「バッハ・オデッセイ」の東京編第4弾「平均律クラヴィーア曲集第2巻」公演の直前、ファツィオリジャパンで行われた。彼女は現在、ロンドン、オタワ、伊ウンブリア州に居を構え、世界各地で演奏活動をしている。次回の東京での「バッハ・オデッセイ」は、同じ紀尾井ホールで19年3月13日に開かれる「トッカータ全曲」だ。

明瞭かつ正統に響き、華やかさや親しみやすさも伴って誰をもひき付ける彼女の演奏は、グローバル時代のバッハにふさわしい。バッハの同じ旋律が、5つの都市で順次鳴り、フーガのように世界を巡る。21世紀バッハ演奏の巨匠と同時代人である喜びをかみしめたい。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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