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堅い「会計」に血が通う 歴史エピソードで解説 「会計の世界史」 田中靖浩氏

2018/10/10

もともとずる賢いブローカー的な存在だったジョーは取り締まる側に回ると、さすがの嗅覚を発揮した。不正投機や帳簿のごまかしなどを摘発し、再発を封じ込めるディスクロージャー(情報開示)制度を導入。証券界の健全化に功績をあげた。これらの改革は現在の会計・証券分野の管理規則に受け継がれている。田中氏は「現在では当たり前になっている会計ルールも実は歴史が浅い。だから、会計規則が現実に合わせて日々、見直されるのは当然だ。むしろ新しいルールを進んで迎え入れていく必要がある」という。

モータリゼーションを呼び込んだ量産車「T型フォード」が象徴する、大量生産の時代を迎えた米国では、新たなビジネスモデルにふさわしい財務思考が求められた。入出金の処理をこなす旧来の会計とは異なる、「何台の自動車を、いくらのコストで生産すれば、最も利益が上がるか」という、生産管理の発想を組み込んだ管理会計が生まれたのは、歴史の必然かもしれない。自動車産業と管理会計が、同じ時期に米国で芽吹いた様子を田中氏は不思議な符合として描く。「今回は『講釈師、見てきたようなうそを言い』の精神で、自分なりの大胆な脚色を施した。歴史から学ぶには、想像力をはばたかせ、その背景やうねりに思いをはせることが大事。会計も目の前の約束事を無条件に受け入れるのではなく、存在理由や意義を理解するマインドが肝心だ」と指摘する。

■ビートルズ楽曲の権利、マイケルの着眼点は…

音楽にまつわるエピソードも会計との距離をぐっと縮めてくれる。たとえば、ビートルズの楽曲の権利を巡るマイケル・ジャクソン氏とジョン・レノン、オノ・ヨーコ夫妻の「競争」。先に取得に動いたのはレノン夫妻だったが、金額面で折り合わなかった。その後、マイケルが2人の交渉額をはるかに上回る金額を提示し、取得にこぎ着けた。

レノン夫妻が取得額を楽曲の「代価」というイメージでとらえていたのに対し、マイケルは「将来、楽曲から得られそうなリターン」を見込んで金額をはずんだ格好。そこにはM&A(合併・買収)の思想があり、マイケルのビジネス的な先見の明も感じさせる。田中氏は「人物エピソードにはその人の感情や思惑などが入り交じる分、味わい深く感じられ、理解も深まる」と話す。

人工知能(AI)やロボットがビジネスのありようを大きく変えつつある今、会計の仕組みにも変化が避けられない。田中氏は「歴史を学べば、あらゆる物事が『普遍的・絶対的ではない』ということがわかる」と説く。変化の先を見通すうえでも、過去の変革点での動きを頭に入れておく意味は大きいだろう。教養ブームが続く今、ビジネス教養としても会計史をおさらいしておく価値がありそうだ。

田中靖浩
田中公認会計士事務所所長。1963年三重県生まれ。早稲田大学商学部卒。「笑いの取れる会計士」としてセミナー講師や執筆を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。著書に「良い値決め 悪い値決め」「米軍式 人を動かすマネジメント」(いずれも日本経済新聞出版社)など。

会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語

著者 : 田中 靖浩
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 2,376円 (税込み)

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