高まる就活ルール議論 多様な人材確保へ欧米に学べ
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
長年の海外生活を経て帰国した私の目には、時として異様に映る光景がある。その最たるものが、春先になるとオフィス街の随所に現れるカラスの群れのような黒ずくめの若者の集団だ。服のみならず、髪形やかばん、靴まで、軍隊を彷彿(ほうふつ)とさせるほどの没個性。そんな大学生たちが一斉に就職活動を始めるのだ。
没個性は外見のみで、面接ではユニークな個性をアピールする学生もいるのかもしれない。しかし、周囲との調和に異常なまでのエネルギーを注ぐ日本人の気質は、変化の速いグローバルビジネスの環境にマッチしているだろうか。人材の多様性が不可欠であるという現実に多くの企業が直面し、規格外の人材をいかに活用するかが問われている。終身雇用を前提とした大卒者の一括採用が中心の日本企業の人事制度に大きな変化が起きつつある。
就活ルールを巡る議論もそんな変化の現れだ。中途採用や卒業時期の異なる学生にも門戸を広げる通年採用を後押しする経団連と、青田買いや勉学への悪影響を懸念する大学側と政府。確かに学業も大切で難しい問題だが、海外の例は参考になるかもしれない。
通年採用が多い欧米では、大学4年生を対象に新卒採用も並行して行うのが一般的である。経団連のルールのようなものはないが、大学の就職斡旋(あっせん)オフィスが、企業の採用活動に対して一定の制限を設ける。従わなければ、キャンパスへの出入り禁止になることも。多くの企業が、大学4年生の前の夏休みに、2カ月程度のインターンシップを有給で実施する。長期なので、学生も企業もじっくりお互いの相性を確認できる。適性や将来性を評価された学生は、企業からインターンシップ後内定をもらうことになる。
日本企業のインターンシップは多くが1週間足らず。企業と学生が相性をより正確に判断できるよう、せめて1カ月程度に延ばせないものか。求める多様な人材をカラスの群れから探すのは容易ではないが、長い時間を共有すれば学生の個性も吟味できる。学生側も入社後、自分の選択を後悔する可能性が低くなる。
人材争奪戦が激化するなか、優秀で多様な人材を確保するには、より多くのリソースを割く必要がある。長期インターンシップは企業側の負担も大きいが、高いリターンを期待できる投資ではないだろうか。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2018年10月8日付]
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