日本の女性登用は的外れ 女性的資質で考える新組織論『ニューエリート』のピョートル氏、女性リーダーのマリア氏と語る

2018/10/12

価値観や気持ちに共感することが求められている

ピョートル:今回、マリアとワークショップをご一緒して感じたのは、日本には女性性のあるリーダーシップが必要であるということ。それを再認識しました。というのも、残念ながら日系の大手企業では、思いやりのあるリーダーシップが欠けているからです。

私がかつてグーグルで実践したマネジメント教育の土台は、「sympathy(同情)」「empathy(共感)」「compassion(思いやり)」の3つです。つまり、結果を出すだけではなくて、社員をいかに人として見るかというリーダーシップの育成が行われているのです。社員でも顧客でも、相手の反応を先読みして、価値観や気持ちに共感することは、いますごく大切なことだと感じています。わが社もこの概念を常に忘れずに、パートナーの方々と日々接しています。エグゼクティブ向けの研修で実践することもあります。

――マリアさんがご覧になって女性性リーダーが活躍している企業はどこですか。

マリア:米アクセンチュアがそうですね。会長兼最高経営責任者(CEO)のピエール・ナンテルム氏は、女性性を兼ね備えた優れたリーダーの象徴です。彼はとても率直でありながら、どれくらい社員のことを思いやっているかが伝わるリーダーです。会社が抱える問題について経営陣だけでなく社員にも率直にさらけ出し、社長としてではなく一人の人間としての自分の向き合い方を示し、皆にも同じようにその問題解決に加わってもらうことを求めます。

彼が会社で話をするときには、いつも幅広い視点で状況を理解していることを伝えようとします。例えば経営陣の課題意識、社内の女性が抱えている気持ち、そして彼自身の気持ちについて発言したのち、それらが互いに協力しあいながら解決されることを呼びかけています。会社が成長していくためには、自分にはメンバーからの支援と学びが必要であることを明示しているのです。

彼は、リーダーが一人でトップに立つヒーローズジャーニーをしているのではなく、「一緒に」協力していくことを求めるリーダーです。つまり、従来のリーダーのように自分が答えを持っていることを会社へ示そうとするのではなく、適切な人たちに適切な問いを投げ続ける、イノベーティブなリーダーのスタイルを持ち合わせているといえます。

――最後に日本のビジネスパーソンに心がけてほしいことや、理想のリーダーシップについてお聞かせください。

マリア:変化の激しい時代に、いま、皆さんや皆さんの会社、あるいは国にとって最も適切な問いはなんですか? 好奇心を持って、周囲にいる若い人、年を取った人、女性、男性、子供たちのことを見渡してみてください。皆さんの日常の習慣を変え、会社の中で訪れたことがないフロアや、これまで足を踏み入れたことのない街に出かけたりしてみてください。まだあまり話をしたことがないような、自分とかけ離れた人達と、会話をしてみてください。好奇心を持って、彼らが何をしているのか、それがどうしてか、どんなことがうまくいっているか、いっていないか、色々と質問をしてみてください。

自分の権威や地位を守ろうとする必要はありません。ただ相手の話を聞くだけでもいいんです。何日も、何週も、何カ月も、聞き続けてください、真の「問い」がおのずと見つかるまで。また、その問いを誰に投げかけるべきかがわかるまで。そして、自分のことをなんでも話せる信頼できる人を見つけてください。自分が話を聞いてもらう分、話をしっかり聞いてあげてください。相手が何を大切にしているのか、心配しているのか、難しいと感じているのか、聞いてあげてください。こうした練習によって、自分が必要としている支援が何かわかるだけでなく、どのようにその支援を求めたらよいかということがわかってきます。

皆さんが、会社と、皆さんの人生と、社員の人生を最も輝かせるためのリーダーシップを見つけることを心から願っています。

ピョートル:僕は「誰もが自己実現できる社会」を目指しています。そのために、自分の経営する会社でも、社員の自己実現を一番に応援する会社でなくてはいけないと考えています。よく講演をやっていると、「社員の自己実現を応援する秘訣はなんですか?」と聞かれるんですね。

秘訣はシンプルです。「人を見る」ことなんです。好奇心をもって、社員ひとりひとりのことを、人としてしっかり見る。それは思いやりを持つことであり、たくさん質問をすることでもあります。僕は経営者として、おそらく指示や命令を伝えるよりも圧倒的に社員に質問をすることが多いです。だって、「どうしたいか」「どうすべきか」は必ず本人が一番わかっているから。心理的安全性を保ちながらお互いの「うちに秘める考え」を上手に引き出すことのできる関係性を築くことが、社員の自己実現を支援する秘訣だと僕は考えます。

これはまさに、共感や思いやりに基づいた、女性性のあるリーダーシップです。その素質は、女性に限らず、必ず男性の中にもあります。僕だって男性ですからね! 皆さんもぜひ、自分の中の優しさと柔軟さをもって、「人を見る」ということをやってみてください。

マリア・ベイリー
感情の発達から社会へのソリューションを生み出すコーチ・ファシリテーター。25年間に渡り世界的ファッションモデルとして活躍。「Studio」(イタリア)、「Vital」(ドイツ)、「Ocean Drive」(アメリカ)、「More」(日本)などのファッション誌の表紙を飾る。仏ロレアル、米エイボン・プロダクツ、米メアリー・ケイなどのブランドモデルとしても活動した。自ら体感した「女性としての」プレッシャーと偏見がきっかけで、自己の再発見と理解に火がつき、山籠もりと禅の修行を続けた後、起業。現在はファシリテーター兼コーチとして、「Feminine Shadow」という女性の影に隠れた満たされない気持ちが、社会を変えるリーダーシップに変容するプロセスの支援をしている。人のもつ全ての可能性を引き出し、世の中の期待や常識の枠にとらわれず自由に発揮できるよう、ボストン・ニューヨークを中心に、HealthVerity(社長)、Chicken Or Egg(創業者、最高サステナビリティー責任者)、Boston Forum of Golden Seeds(代表)など、大手/スタートアップの経営者・エグゼクティブ向けにコーチングを行う。
ピョートル・フェリクス・グジバチ
2000年に来日。米ベルリッツ、米モルガン・スタンレーを経て、2011年米グーグルに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立して現在プロノイア・グループにて代表取締役を務めると同時に、モティファイにてチーフサイエンティストとしても活躍している。著書に『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』(SBクリエイティブ)、『ニューエリート』(大和書房)、『世界最高のチーム』(朝日新聞出版)。

(ライター 志村昌美、写真 小川拓洋)