電球ソーダに悪魔のジュース ヒット仕掛け人を直撃
平日でも1日300人、週末ともなれば500人以上の若い女性がこぞって訪れ、行列を作っているのが、2018年8月にオープンした日本初のチーズティー専門店「FORTUNER tea-box(フォーチュナーティーボックス)」だ。
チーズティーとは、カップに注いだ紅茶やウーロン茶、緑茶などの上に、クリームチーズや生クリームを原料としたふわふわのチーズフォームを載せ、岩塩で味付けした斬新なもの。塩味が効いたチーズフォームとお茶が口中で程よく混ざり、甘じょっぱくて後味はスッキリした新感覚の茶系飲料だ。非常にクセになる味で、海外では病みつきになる若者が続出。別名「悪魔のジュース」と呼ばれるほどだ。
発祥とされる中国や台湾ではチーズティー専門店が増えており、米国のニューヨークやロサンゼルスでも話題を呼んでいる。日本でも、メニューの一つとしてチーズティーを提供する店はあったが、専門店は国内初だ。仕掛けたのは、17年に一気にブーム化した電球ソーダの専門店「原宿電気商会」の運営会社でもあるFUWA(三重県桑名市)の菊池丈社長。「サードウエーブコーヒーは確かにブーム化したが、いまだに若い女性の中には苦手という人も多い。かといって、ストレートにお茶を提案するのでは間口は狭い。そこで、彼女たちに絶対嫌われない『チーズ』を組み合わせたチーズティーなら、受け入れてもらえると考えた」(菊池氏)と話す。
チーズティー専門店としてエッジを立てるだけではなく、カップ容器のサイズや質感、イラストは日本の若い女性の好みに最適化。要となるチーズフォームは、チーズティー初体験の日本人が飲みやすいように当初は少し軽めの味わいにしてある。今後、「脂肪分を変えたり、量を増やしたりしてチーズ感を強めていき、新感覚の飲料に徐々に慣れてもらう」(菊池氏)と、若い女性をとりこにする工夫も上々だ。
そして、「インスタ映え」を狙ったさまざまな仕掛けもある。ドリンクは8種類を提供しており、オレンジ色の「マンゴーチーズティー」や赤紫の「ストロベリーチーズティー」、スライスオレンジが入った「オレンジチーズティー」など、白いチーズフォームとの対比で写真映えするカラフルなドリンクがそろう。店舗には「HI CHEESE TEA」とデザインされたネオン管や、イメージイラストの看板を配置するなど、ドリンクと一緒に自撮りして画になる撮影スポットも抜け目なく用意している。
さらに秀逸なのが、ドリンクがこぼれないよう飲み口を狭くした通常のフタに加え、フタの半分ほどがぽっかり開いた飲み口が広いタイプも用意していること。このフタでじか飲みすると、チーズフォームが唇の上に「白ひげ」のようにくっ付く。若い女性たちが、そんなお茶目な自分の様子を面白がってSNSにアップし、その写真が拡散するのを狙ったものだ。
その狙いは、見事に的中している。Instagramには店の撮影スポットで商品を写した写真や、「白ひげ」を付けた若い女性の自撮り写真が無数に投稿され、同じようにインスタ映えを狙いたい若者が店を訪れる好循環が生まれている。「今の時代、飲食店で成功するには若い女性にターゲットを絞るのが近道。彼女たちに買ってもらうには、中身や見た目からパッケージ、店頭や店内の装飾、面白がれる体験に至るまで、緻密にインスタ映えを狙った作りにすることが絶対条件」と、菊池氏は話す。
電球ソーダも仕掛けた異色の経営者
チーズティーを一躍人気ドリンクに仕立て上げた菊池氏は、ここ数年、10~20代の若い女性の間でスイーツや飲料をはやらせている異色のヒットメーカーだ。長らく名古屋を拠点に男性向けアパレルブランドを手掛けていたが、16年5月にFUWAを創業。原宿の竹下通りで話題を呼んでいる巨大なレインボー綿あめを作れる特殊な製造機の輸入卸を手掛けつつ、自身も名古屋の若者が集うエリア、大須で同じ綿菓子を販売する1坪ショップを開店。女子高生を中心に連日長蛇の列ができる大ヒットを飛ばした。
17年には東京に進出し、「原宿電気商会」を開業。当時韓国で人気を呼んでいた「電球ソーダ」の専門店だ。電球を模したペットボトルに色とりどりのソーダを注いで提供するスタイルで、インスタ映えすると若い女性がこぞって買い求めた。電球ソーダは1日の来店客数が1000人に上ることもあり、夏休み期間は月商1000万円を超える大繁盛店に育った。その後は、次々に同様の商品を出す業者が現れ、お祭りの露店にも登場するほどブーム化したのは記憶に新しい。
さらに17年9月、原宿電気商会の隣で、ブタやゾウ、ウサギなど、愛嬌たっぷりの動物キャラクターの顔をデコレーションしたアイス「どうぶつえんアイス」を売り出すと、またもや女性の心をわしづかみに。いずれの商品も、菊池氏が徹底してこだわるインスタ映え要素が詰め込まれており、それが異例の高確率でヒットを飛ばせる源泉だ。
驚くのは、海外発のスイーツやドリンクを日本に上陸させ、ヒットを生み出すまでのスピード感。その秘訣は、「毎日、アジア各国を中心に若者にはやっている飲食店の写真やYouTubeの動画をチェック。アンテナに引っかかったものは、すぐさま海外のユーチューバーや画像の投稿者に直接コンタクトを取って、詳しい情報を引き出している」と、菊池氏は話す。
そのなかで見つけた「新作」が、台湾などで今、話題を呼んでいる「タイガーシェイク」だ。タピオカを入れた黒糖ミルクティーで、ミルクティーに混ざった黒糖やタピオカの見た目が虎柄に見えることからタイガーシェイクと呼ばれており、「汚茶」と表現されることもあるという。FUWAはフォーチュナーティーボックスに続く茶系カフェの2号店として、この飲料のみを提供する「フォーチュナー タイガー&ミルク」を東京・表参道にオープンする予定だ。「タピオカは古くて新しい注目素材。今どきの若い女性も、もちもちとしたタピオカの食感にハマっており、お茶との掛け算で提案する」(菊池氏)。こちらも、話題を呼ぶことは確実だろう。
目玉となるチーズティーやタイガーシェイクを打ち出すのは、「あくまで若い世代に茶葉文化を浸透させるための『入り口』にすぎない」と菊池氏は話す。というのも、スターバックスコーヒーをはじめ、さまざまなチェーンが紅茶専門店などに挑戦したが、成功しているとは言い難い。それは、最初から本格感を打ち出すあまり、ハードルが高くなってしまったからだろう。「そもそもお茶の楽しみ方は柔軟に考えるべきだし、トライアルしてもらって何度も通ううちに、もっと茶葉の深い世界にも興味を持ってもらえる」(菊池氏)
こう話す菊池氏が最終的に狙うのは、紅茶や緑茶、ウーロン茶など、さまざまなお茶自体を手軽に楽しめるカフェチェーンにフォーチュナーティーボックスを育てることだ。フランチャイズ展開も計画している。新感覚メニューやインスタ映えを切り口に若い女性をまず引き付け、そこから本来の目標につなげるというステップアップ作戦が、今どきの飲食店の正しいアプローチなのかもしれない。
(文 高橋学、写真 高山透)
[日経クロストレンド 2018年9月21日の記事を再構成]
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