呼吸・食事・排泄・武器・住居 ナマコのお尻5つの力

2018/10/5
ナショナルジオグラフィック日本版

ナマコはとても単純な生物に見えるかもしれない。だが、すごい能力をもつ動物だ。ナマコはヒトデやウニに近く、棘皮(きょくひ)動物というグループに分類される。ほとんどは海底で生活するが、食事、消化、排便という活動を通じて、環境に大きく複雑な影響を与えている。たとえば、サンゴ礁や海草を健康に保ったり、気候変動を和らげたりもしているという。

そして、ナマコが消化と排便を行うとき、体内では見た目以上のことが起きている。ナマコのお尻ほどいくつもの機能を併せもつものはないだろう。

「ナマコの中には、お尻に呼吸の機能をもつものがいます」と話すのは、米スミソニアン国立自然史博物館の無脊椎動物学者であるクリストファー・マー氏。「肛門のまわりから酸素を取り込めるのです」

ナマコがこの裏口を開けるとき、海水を取り込める。海水は「呼吸樹」と呼ばれる一連の小部屋に通されて、酸素が取り出される。

それだけではない。ナマコは、脅威が迫るとキュビエ器官と呼ばれる呼吸樹の一部を放出する。これは、ネバネバした糸状の物質で、カニや魚などの小型の捕食動物の動きを妨害できる。

つまり、ナマコはお尻で呼吸も食事も戦闘もできるのだ。

動画には映っていないが、驚くほど多くの生きものたちにとって、ナマコの中は狭いながらも快適な住居になる。

「カクレウオという魚が、実際に肛門を出たり入ったりします」と、マー氏は言う。「直腸の中にすんでいるんです」

同じナマコを別の種のカクレウオと共有する魚もいる。しかし、そうでない場合は縄張り意識が強く、すみかを守ろうとする。ほとんどの種は宿主に害を与えないようだが、しかもカクレウオ属は、ナマコの生殖巣を食べることがわかっている。

小型のエビやカニもまたナマコのお尻のまわりに集まり、腹足類やカイアシ類、扁形動物に加え、たくさんの生きものが体の他の部分に寄生している。「ナマコはそれ自体、動く生態系のようなものです」とマー氏。

世界中の海には、約1250種のナマコが生息している。生息場所はさまざまだ。砂の中に完全に体を埋めるものもいれば、海中を漂いながらサンゴのように小さな餌を取り込むものもいる。

また、動画のナマコのように、海底を這って堆積物を吸い込んだり、あるいはたくさんの触手を使って食べるものもいる。

砂に埋もれた有機物を食べるので、ナマコが出すものは入るものより実質的に「きれい」だ。生きものによって堆積物がかき乱され、その中の物質が移動するこの過程を、科学者たちは「バイオターベーション(生物擾乱)」と呼んでいる。これは、生態系に非常に大きな影響を与えている現象だ。

またナマコのうんちには想像をはるかに超えた価値が秘められている。

2012年に学術誌「PLOS ONE」に掲載されたある論文によれば、海底に有機物が堆積しないのはナマコのおかげもあり、赤潮も防いでいる。

また、2010年に「Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom」誌に掲載された研究によると、亜熱帯地方では、ナマコがそばにいる方が海草の成長が早いという。ナマコが多く水揚げされている場所では、海草の育ちは悪かった。

さらにナマコは消化活動を行う際に、サンゴの骨格に欠かせない炭酸カルシウムを放出する。また、ナマコの排泄物は周辺の海水のアルカリ度を上昇させるので、サンゴに悪影響を与える海水の酸性化を和らげる効果があると考えられる。

「うんちは、みんなの笑いを誘うすごいものです」とマー氏は話す。「しかし、生態系にとっては、とても大切なものでもあるのです」

[ナショナル ジオグラフィック 2018年8月31日付記事を再構成]

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