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東京・石川酒造 土蔵が並ぶ「酒飲みのテーマパーク」ぶらり日本酒蔵めぐり(4)

全国燗酒コンテスト2018で金賞を受賞した「純米大吟醸 たまの慶」

精米歩合が50%の「たまの慶」は冷やとぬる燗で異なる表情を見せる。「冷やせばりんとした大吟醸らしさを味わえる」のに対して、ぬる燗では風味が丸みを帯び、コメのうま味が広がる。自身も燗酒が好きだという石川さんは「大吟醸でも香りを抑え気味のものは、温めてもおいしく飲めます」と説く。

「たまの慶」を造る過程に、石川酒造の酒造りの特徴が垣間見える。やや細かい話になるが、高級酒造りの最終過程で石川酒造は「瓶(びん)燗火入れ」と呼ばれる殺菌法を採用している。通常は酒を65度に加熱して殺菌、その後急冷して瓶詰めする。瓶燗火入れは低温で瓶詰めしてから瓶ごと加熱して低温殺菌する。

かつては手作業で瓶を湯煎していたが、今はパストライザーと呼ばれる、瓶にお湯のシャワーを浴びせる機械を導入、殺菌工程を自動化している。「瓶詰め前に加熱すると、加熱後、瓶詰めするまでに吟醸香が揮発してしまいます。瓶詰め、打栓してから加熱すれば香りを逃さなくてすみます。この差は意外と大きいんですよ」と石川さん。

原料処理にも神経を使っているそうだ。「自家精米していますが、精米から浸漬(コメを蒸す前に水に浸すこと)にかけて、注意して作業しています。例えば急いで精米するとコメが乾燥しすぎて、浸漬の際に吸水率が上がってしまうなど、時間と手間を惜しまないのが肝要です。温度にも影響を受けますので、気を抜けない日が続きます」

こうした作業を「4、5人でやっています」という。杜氏(製造責任者)も蔵人も社員。少数精鋭で15種ほどの原酒を造る。杜氏の前迫晃一さんは34歳。今冬(平成30酒造年度)が杜氏として3季目となる。前迫さんは東京農業大学で醸造学を学んだが、入学前から、石川酒造でアルバイトとして働いていた。杜氏就任時にすでに10年以上にわたって酒造りを経験していた。

石川酒造の歴史、明治期のビール造りの記録など、貴重な史料をわかりやすく整理して展示している

「生え抜きどころか、種からうちで育ったようなものです」と石川さんは笑う。かつては越後杜氏の製造チームを受け入れていたが、徐々に社員との混成チームとなり、約15年前からは製造現場はほぼ社員が占めるようになった。杜氏集団の時代とは異なり、製造計画や商品企画について社長と現場の意思疎通の機会が増えたという。

ところで、「山廃仕込み」という仕込み方法がある。山廃仕込みは、酵母が働きやすくするために雑菌を除く作用のある乳酸菌を、人工的に添加しないやり方で、味わいは酸味が際立ち濃厚で芳醇(ほうじゅん)になる。自然界の乳酸菌を取り込み、時間をかけて酵母を繁殖させるので、造り手は長い間、緊張を強いられる。

「うちは『山廃』が得意なんです。古くから手がけていますから。取引先などの評価も高いし、自分でもできがいいと思っています」と石川さんは胸を張る。今年、前迫さんが杜氏として初めて仕込んだ山廃が発売される。「山廃は二冬寝かしますから。十分熟成をきかせて売り出します」。ただ、「来年出すものの方ができがいいかな」と石川さん。前迫さんも杜氏就任2季目の山廃が自信作なのだそうだ。

石川さんが思い描く理想の酒は「料理を食べながら楽しめる酒」だという。「酒は引き立て役でいいんです」とも。原料処理や殺菌、山廃仕込みへのこだわりからは、自然体で酒造りに取り組む姿勢が伝わってくる。日本酒の味わいのトレンドはこの30年間をみても、淡麗からうま味重視へとシフトしている。しかし石川酒造の酒造りは目先の流行に惑いはしない。

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