このようなマッキンゼーの評価のいいところは「絶対評価」だという点です。「3つしかない課長のポジションを同期が横一線で争う」といった、組織にありがちな相対評価はありません。比べられる対象はあくまで、過去の自分や評価基準となる理想の成長カーブです。全員が成長したと見なされれば全員がビジネスアナリストから次のポジションに上がれるし、基準に達しなければ全員が昇進できないということもシステム上は起こりえます。ポジション争いの概念がないので、同期はライバルではなく、仲間です。ライバルはともすれば折れそうになる自分自身で、比べるべき相手は昨日の自分なのです。
自分がやるべきことは何かを問い続ける
勝つべき相手はあくまで過去の自分であって、他者との比較ではないという意味では芸人の世界もそうだと私は思っています。もちろん他の芸人の活躍を見てライバル心を持って発奮することはあっても、何かの具体的な数量限定の枠を争っているわけではありません。ワタナベコメディスクールの卒業審査も、あらかじめ10組を所属させるという枠が決まっていたわけではありませんでした。
賞レースと呼ばれるピン芸人の大会「R-1ぐらんぷり」や漫才の大会「THE MANZAI」には優勝という座席が1つしかありませんが、多くの若手芸人が目指す「売れる」「仕事になる」ことに関して言えば、定員は無いと思っています。私も芸人を始めた頃は他人と比べ無駄に焦っていましたが、その前に自分がやるべきことをやっているかを自分に問うと、自ずと考えるべきことは見えてきました。
ただ、過去の自分と比較していつまでも前に進んでいる実感が無かったり、「もうこれ 以上いけないな」「やりたいことは出し切った」と心底思うときが来たりしたら、別の道を探すときなのかもしれません。それまでは自分との闘いを続けるのみです。
さて、8回にわたってお届けしてきた「コンサルとお笑いは似ている!」いかがでしたでしょうか。お笑い養成所時代に気づいた「あれ!?マッキンゼーと同じこと言ってるぞ」というポイントをご紹介させていただきました。マッキンゼーとお笑いがものすごく遠い世界でありながら共通点がいくつもあるというのは、双方が目の前にいるお客さんに喜んでもらうことを至上命題とした究極のサービス業なので、必然のことかもしれません。この連載の中で読者の皆様にも参考になるテクニックをお伝えできたとしたら幸いです。(おわり)
1983年生まれ、東京都出身。白百合学園中学校・高等学校から東京大学文科三類に入学。工学部社会基盤学科卒、東大大学院修了後、2008年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、お笑いタレントを志して09年夏に退社。TOEIC990点(満点)、英語検定1級取得。現在、ワタナベエンターテインメント所属のお笑いタレントとして活動中。