「ブラジルは自身の一部を失った」 博物館火災の衝撃

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/9/15

博物館設立200周年を間近に控えた2018年5月には、補修工事が行えないことにより、30の展示のうち10が閉鎖された。このとき、ブラジルの新聞「Folha de S.Paulo」は、博物館の壁は剥がれ、配線がむき出しになっていたと伝えている。また、博物館の近くにあった2つの消火栓は空だったようで、消防士は給水車や博物館があるキンタ・ダ・ボア・ビスタという公園の池の水を使わざるをえなかったとされている。

ブラジルは自らの一部を失った

ブラジル政府は、すでに国立博物館の再建についての調査を始めることを確約している。「Folha de S.Paulo」紙も、セルジオ・サー・レイタン文化相が他の博物館の防火システムの査察を求めたと報じている。

博物館の前で抗議する学生たち。火災後、リオデジャネイロのあちこちで抗議デモが起きている(Photography by Fabio Teixeira, picture-alliance/dpa/AP)

しかし、研究者たちは、建物を修繕するだけではブラジルの科学界にぽっかりと開いた穴を埋めることにはならないと指摘する。ましてや、国は研究費の削減を続けている。2017年3月、テメル大統領は科学分野の予算を44%削減し、10億ドルとした。これは2005年以降で最低の水準だ。それだけでなく、2017年後半には、さらに16%削減することを提案した。

「ブラジルでは、一般的に科学は投資対象と見なされていないのです」とロチャ氏は言う。「ブラジルの首脳陣の目が開き、再建だけでなく投資する価値があるものだと理解してくれることを期待しています」

フランソゾ氏はこう述べる。「そもそも、本当に博物館再建の費用を出してくれるのかという不信があります。その次に感じるのは怒りです。何年も前から、政府は博物館が資金を必要としていることを知っていたのです。灰になってしまった200年前からのコレクションを、どうやって『再建』するというのでしょう?」

その間も、地元の学生たちは復旧作業を始めている。博物館は、電子メールで次のように述べている。「このような悲劇を受けて、UNIRIO(リオデジャネイロ州連邦大学)の博物館学課程の学生たちは、国立博物館の記憶を残すための活動を始めています。コレクションや展示スペースの画像(写真や動画、自撮り写真でもOK)を持っている方は、ぜひ共有していただきたいと思っています」

米フロリダ大学の生態学者エミリオ・ブルーナ氏はよくブラジルに行き、生息地分断化の研究を行っている。「あの建物には、ブラジルという信じられないほど豊かで活気あふれる国の根源がありました。そこを歩くことで、この国にしかいなかった恐竜の化石を見て、誇りを感じることができました」

ブルーナ氏は続ける。「博物館は生きものです。私たちが何者であるか、どこからやってきたのか、そして私たちのまわりにある世界はどんなものかを教えてくれます。まさに呼吸する貯蔵庫なのです。引き出しにピンで留められた虫や、びんに入った魚、陳列ケースの中の鳥などは、人間として、そして大いなる世界の一部としての私たちを表しているのです」

「そういった標本が失われるということは、自らの一部を失ったということなのです」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年9月5日付]

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