20世紀後半から21世紀初頭にかけ、世界のフランス料理界をけん引してきたジョエル・ロブション氏が8月6日、亡くなった。享年73歳。1994年、飲食店経営専門誌『日経レストラン』(日経BP社)でインタビューした加藤秀雄編集長(当時)に、料理界にとどまらず、数々の功績を残した同氏のリーダーぶりについて語ってもらった。
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ロブション氏の人柄を表す言葉として、「誠実・謙虚・厳格」ということが言われるが、もう一つ「優しさ」という言葉を付け加えてもいいのではないかと思う。
1994年11月、フランス料理のことなどほとんど分からない私がインタビューに伺った時、「そんなことは、どうでもいい。あなたの雑誌はビジネス誌なのだから、その分野のことでお話をしましょう」と、すごく緊張していたこちらを包み込むような感じで対応してくれた。この時の印象をひと言で言うなら「この人、すごいな」というものだった。
専門家と言われる人の中には、自分の専門領域やそこで使う言葉が理解できない人を排除したがる「似非(エセ)専門家」がいる。相手が分からなければ、自分の専門領域のことを、その人に分かる言葉に置き換えて説明できるのが「真の専門家」だと私は思っているのだが、ロブション氏は、それすら超えていて「私がそちらの土俵に上がっていきましょう」という感じだった。
■日本が好きで、尊敬していたロブション氏
ポール・ボキューズ氏、ベルナール・ロワゾ―氏など、日本で店を出したフランスのグランシェフは多いが、日本のフランス料理に、より大きな影響を与えたという点では、ロブション氏の右に出る人はいない。ロブション氏は本当に日本が好きだったし、敬意を持っていたというのが一番の理由なのではなかろうか。
バターや小麦粉などをたっぷりと使い、重い感じがする旧来のフランス料理から進化した、いわゆるヌーベルキュイジーヌ。これをひと言で表現するなら、「素材の持ち味を極限まで引き出し、それを軽い味で仕上げ、彩り豊かな盛り付けで提供する料理」と言える。この背景には、西洋絵画の印象派に、日本の浮世絵が大きな影響を与えたように、料理の面でフランスと日本が影響を与え合ったことがある。そして、このことを一番よく理解し、その先頭に立っていたのがロブション氏だったのだ。