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埼玉・滝沢酒造 老舗が極めるシャンパンとの出合い ぶらり日本酒蔵めぐり(3)

2018/8/22

そびえ立つ煙突と酒林が目印となる滝沢酒造

JR深谷駅から旧中山道に入り西へ15分ほど歩くと、レンガ造りの煙突と江戸期の風情を伝える建物が見えてくる。軒先には枯れた色の酒林。滝沢酒造(埼玉県深谷市)はひと目で酒蔵とわかるたたずまいをまとう。2001年以降、全国新酒鑑評会で10回の金賞を獲得した実力派がスパークリング日本酒という新境地に踏み出し、10月には新商品を発売する。

酷暑の8月上旬、さいたま市内で催された、地酒を楽しむ集いで好評を博した銘柄の一つが滝沢酒造の発泡性純米酒「菊泉 ひとすじ」だった。埼玉県内の酒蔵を応援するのが会の趣旨なので卓上にビールはない。開会から乾杯まで時間がかかったこともあり、ワインクーラーでほどよく冷えた「ひとすじ」は飲む者の渇きを癒やした。

「ひとすじ」の発売は2016年。販売中の商品で仕込みは3年目となった。社長で杜氏(とうじ、製造責任者)の滝沢英之さんは「着実に売れ行きを伸ばしています」と話す。仕込み量は年ごとに1.5倍に増やしているという。主な販路は百貨店で、「試飲即売のイベントなどでは30~40代女性の反応がいい」そうだ。商品開発の当初の狙い通りに成長しつつある。

埼玉の酒蔵を応援する集いで「ひとすじ」を紹介する滝沢氏(8月2日、さいたま市)

ドイツ・ベルリン市内の高級日本料理店とは継続的に取引する仲になった。欧州ではハンガリー、アジアでは台湾や香港の店からも引き合いがあった。輸出にも手応えを感じ始めていて、「やはり挑戦したいのは米国」だという。10月に予定されている商談会に参加する意向で、米国向けの取引の突破口にしようと準備を進めている。

なぜスパークリング日本酒を手がける気になったのか。滝沢さんの構想の原点は修業時代にさかのぼる。滝沢さんは1994年に早稲田大学教育学部を卒業後、「多満自慢」の酒蔵、石川酒造(東京都福生市)に入社した。2年目、発酵の初期段階から毎日、醪(もろみ、日本酒の前段階で発酵中の液体)の成分分析と利き酒を繰り返すうち、あることに気づいた。

「甘みと酸が絶妙のバランスをみせる瞬間がある」。発酵が始まって10日目あたりのことだ。発酵が始まると酵母の働きで糖がアルコールと炭酸ガスに変わってゆく。発酵が進むと炭酸ガスは仕込みタンクの外に放出され、アルコール分は残留して日本酒になる。発酵の途中に、まだ炭酸ガスが放出され尽くさない状態でおいしい過程があるというのだ。

もっとも、これは滝沢さんの大発見というわけではないらしい。「10日目の醪の味は、酒造りに携わる者なら誰でも知っています。それを飲む人に届けられないか。商品化できないか。そのことをずっと考えていました」。23歳のときに得た着想が具現するまで20年あまりを要した。

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