じぶん働き方改革、時間割は理想描く 現状改善はNG
働き方改革のコンサルティングを行っている池田千恵さんが、「理想の一日の時間割」を描くことから、「改善思考」から「改革思考」に脳内をシフトする方法について解説します。私たちが目指すべき「じぶん働き方改革」について、改めて考えていきましょう。
現状把握から入る働き方改革は失敗する
私たちが目指していくべきは「じぶん働き方改善」ではなく「じぶん働き方改革」です。改善なら今までの延長線上で考えてもいいかもしれませんが、改革をするからには、今までの考えからは全く違った視点で問題を眺め、飛躍した切り口から考える必要があります。
「改革」ではなく「改善」がクセになると、少しだけよくなった未来しか手に入りません。例えば時間管理を例に挙げると、「自分の時間を増やしたい!」と思ったとき「いかにして9時~17時で業務内に仕事を終わらせるためにムダをなくすか?」「いかに家事を効率化するか?」というところで工夫するので、「早く動くためには」「同時に物事を進めるためには」といった、スピードアップ方法や効率化の話で終わってしまいます。
もちろん上記の手法も大切ではあるのですが、スピードアップ方法や効率化の方法で短縮できる時間はせいぜい頑張っても1時間程度です。本当は「そもそもなぜ9時~17時で働く必要があるのか?」「本当に自分が集中して働いている時間は何時間なのか?」「7時~10時の3時間で7時間分の成果を出せないか?」「家事は絶対自分がやらないといけないものなのか? 他の人にお願いしたり、今より便利な機械で代用したりできないものなのか?」といったところから考え直さないと、本当の改革案は生まれないのです。
今まである答えを一生懸命覚えて、現状をよくしようと頑張り続けるということを長年続けていくと、「改革」を考えよ、と言われても、具体的な方法が分からず止まってしまいます。そんなときに頭を軟らかくし、「改革脳」をつくるための訓練法を紹介しましょう。
「どうせかなわない」で思考を曇らせないための、図の描き方
先日、雑誌の企画で、早起きにチャレンジしたい人を対象にした誌上カウンセリングを行いました。早起き生活を実現させたいという目的から始まったカウンセリングですが、最後は大きな、考えるだけでワクワクするような野望が見つかり、そのためには朝早く飛び起きてでも時間をつくりたい! という状態をつくることができ、私もとても楽しくやりがいのある時間を過ごしました。
早起きしたい人、時間を有効に使いたい人、働き方を改革したい人にはまず、次の図を使って理想の時間割を描いてもらいます。「わあ! これが実現したら、ものすごくうれしいなあ!」と心から思えて、わくわくして思わず動き出したくなってしまうような一日の時間割を作ってみるのです。
「改善思考」の考え方では、まず現状把握として、今の時間の使い方を描いてからどこを変えていくかを考えます。しかしそのやり方だと、現状に引っ張られてしまい、ぶっ飛んだ未来、本来はこうあるはずだ、という思考になることができないのです。そんな硬くなってしまっている発想力を軟らかくする訓練が、この図を描くことです。
ここでのポイントは、「今の職場は9時~17時の勤務時間だから」といって、9時から17時まで仕事にする必要はないということです。「普段は9時~21時まで働いているけど、理想は9時~17時なんだよね」と考えるのではなく、これが実現できたら毎日最高だ! と思う時間割を作ることです。例えばそれが、朝の7時~10時までの3時間だけ働くというものでもかまいません。自由に、好きなようにイメージをまず膨らませるのです。
しかし、「自由に」といっても人は習慣の奴隷ですから、最初はついつい、いつものスケジュールを入れてしまいます。例えば、今通勤に1時間かかっている人なら、通勤時間は当たり前のように1時間入れてしまう、といったように。「本当は通勤なんてばからしいと思っていて、家で快適な状況でリモートワークできたら最高!」と思っていても、つい今までのクセで通勤時間も入れてしまいます。
ぶっ飛んだ考え、ワクワクする考えをしてください。そう言われても、やはり急にそのような考えをすぐに浮かべることが難しいのは、日々の時間に忙殺されてしまっているからです。この図に、心からの理想をイメージして描くことにより、「さて、何をしたい?」「何も制限がないならどうする?」という思考に徐々に慣れるようになっていきます。自分自身の成長やライフステージの変化によって、理想とするスケジュールは変わってくるものなので、半年に1度、1年に1度など、定期的に描いてみることをおすすめします。
この理想の時間割ですが、作成したからといって明日からすぐに実現できる! という類いのものではありません。しかし、「3時間だけ働く」が明日から実現できるわけではなくても、「3時間だけ働く」人が本当にいるのか、どうやって実現していったかを調べることなら今日からすぐできます。「実際は無理だ」と思ってしまう思考を、「理想の働き方の一部は、明日から始められるかもしれない」という思考に徐々に慣らしていく手段が、冒頭の時間割作成です。
他人に自分の人生の主導権を握らせないで
私は、働き方改革の実践と早起きの習慣化には共通するものがあると考えています。早起きしたい人の悩みも、働き方を変えたいという人の悩みも、突き詰めると「自分主体でなく他人に自分の人生の主導権を握られているのが嫌だ」という意識が強いのです。やる気はあるのにいつも中途半端、何も進まずに焦る、考えるための時間をつくろうにも、夜は仕事や家事が忙しくてついつい寝る時間も遅くなり、ダラダラ過ごしてしまう。そんな自分を変えたい! というのが本質なのです。
ですから、じぶん働き方改革に取り組むときも、「価値観の明確化」についてあらためて考えてみましょう。自分にとってどういう状態が最高なのか? 何のために働き方を改革するのか? という本質の部分を、忙しさに流されて見失っていると、改革を推し進めることができないのです。
多くの人が今、一日の3分の2以上の時間を費やしているのが仕事です。そういう意味では、一日の大半を費やす仕事を改革する「じぶん働き方改革」は、「じぶん生き方改革」と言い換えることができるでしょう。本当は何をしたいの? を忙しさに流されて見失わないようにしていきましょう。
「自分のしたいこと」を置き去りにしないで
私が伝えたいことは、あなたの「したい」を置き去りにしないでほしい、ということです。「しなければいけない」を一日中めいっぱい詰め込んでしまうせいで、本当に心からやりたいことが後回しになってしまいがちです。
人生で最も辛いのは自分でコントロールできないことに右往左往してしまう「受け身」の状態です。心からの「したい」という選択を自分で決めていないから、なんとなくいつも中途半端で、モヤモヤしてしまうのです。本来、きちんと分かっているはずの心の声を、忙しさに紛れてないがしろにしてしまっていませんか。さまざまなノイズにかき消されて本心かどうか分からなくなってしまっている状態をきちんと整理整頓して、受け身でない時間をつくるというのが「じぶん働き方改革」の本質です。
あなたが「じぶん働き方改革」の一歩を踏み出したとき、目の前の仕事一つひとつが「食べていくためにやらなければいけないこと」ではなく、自分の人生をよりよいものに磨き上げるための貴重な経験だと認識が変わります。自分主体で人生をつくっていっていると感じることができれば、他人に時間を奪われているという感覚は消え、人生に責任を持てるようになります。たとえチャレンジの結果が今はうまくいかなくても、選んだ道を最善にしてやる! と決めて突き進むことができるようになります。
改革が進まない会社の現状を嘆いて自分自身のアップデートを止める必要はありません。「じぶん働き方改革」のための方法論はお伝えしました。あとは今の自分を武器に換え、物事に取り組んでみるだけです。現状を打破する鍵はあなた自身が持ち合わせているはずなのです。あなたの意識さえ変われば、改革に取り組む際に起こるであろう挫折や失敗でさえも、あなたがそこからはい上がるプロセスを経て、ますます光り輝くことでしょう。
株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や自治体の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築している他、「働き方改革プロジェクト」「女性活躍推進プロジェクト」など、ミドルマネジメント戦力化のためのコンサルティングや研修を行っている。「絶対! 伝わる図解」(朝日新聞出版)、「朝活手帳」(ディスカヴァー21)など著書多数。
[nikkei WOMAN Online 2018年7月4日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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