国も本気で副業促進 指針公表、仲介サービスも登場
働き方改革の一環で副業に焦点が当たっています。厚生労働省は今年初め、企業や、働く人向けのガイドラインを公表し、副業を促進しています。
背景には労働力人口の減少があります。副業が活発になれば、1人の人が複数の仕事に携わり、労働力不足の解消につながります。働く人の側も、収入の増加、キャリア形成、スキルアップ、自己実現の追求を期待できます。
人材サービス大手のエン・ジャパンは5月、副業の実態調査をまとめました。副業に興味がある人は88%、実際に経験がある人は32%。調査対象は転職支援サイト「エン転職」のユーザーで、20~40代の正社員(3111人)です。総務省の2017年の調査では、働く人のうち副業がある人は4%でしたが、一定の条件を満たす人に絞ると、副業は身近な存在になっているようです。
エン・ジャパンの調査で副業の目的をみると(複数回答)、「収入を得るため」が83%で最も多く、「スキルアップ」(22%)、「自分のキャリアを広げる」(18%)が続きます。副業の内容では(複数回答)、接客・販売・サービス系のアルバイトが59%と圧倒的に多く、大学講師(1%)、NPO(1%)といった回答は少数です。
副業をしている人が多いのは、本業の年収が300万円未満と、1000万円以上の層に分かれるとの調査結果もあります。エン転職の岡田康豊編集長は「収入不足を補うための副業と、収入以外の動機による副業との二極化が進んできた」とみています。ただ、無料のネット講座など個人が能力を磨く場は増えており、岡田氏は「より多くの人がキャリア形成につながる副業に挑戦できる環境は整ってきた」と変化を感じています。
NPO法人エティック(東京・渋谷)は6月から、地方企業と、副業で地域に貢献したい、都市部に住むビジネスパーソンとを仲介するサービスを始めました。キャリア形成や社会貢献を目指す人からの応募が大勢で、多様な専門能力を生かし、時間や期間を区切って地方企業を支援しています。ある企業の経営戦略担当の執行役員は、岩手県の企業と業務委託の契約を結び、月10日間程度、新規事業に協力しています。
民間調査では、社員の長時間労働を加速する、情報漏洩のリスクがあるといった理由で副業を禁止している企業は8割弱に達します。ニッセイ基礎研究所の金明中准主任研究員は「労働時間の管理、社会保険の取り扱いをはじめ、働く人を守る基盤を整えたうえで、企業は副業を解禁してほしい」と話しています。
NPO法人エティックの高橋健氏「シニア層への広がりも期待」
本業で培った専門知識やスキルを生かし、地域社会に貢献したいと考えるビジネスパーソンが増えています。地方企業と、都市部に在住するビジネスパーソンを仲介する事業に取り組むNPO法人エティック(東京・渋谷)ローカルイノベーション事業部の伊藤順平氏と高橋健氏に、成功事例や課題を聞きました。
――地方企業にはどんなニーズがありますか。
伊藤氏「地方には、新規事業や海外展開にチャレンジしようとする中小企業が数多くあります。そこで、専門能力を持つ人材に、地方企業に転職してもらう事業を2016年にスタートさせました。しかし、地方に移住してキャリアを変えるのは非常にハードルが高く、成立したのは2年間で20人弱にとどまりました。そんなとき、ある地方企業から、1カ月のうち10日間、来てくれればよいという要請がありました。求人を出したところ、極めて優秀な方の応募があり、マッチングに成功しました。手応えを感じ、今年6月から、ダブルワーク・副業で地方の企業を支援する人を求める『YOSOMON!』という名のサービスを始めました」
――サービスの仕組みを教えてください。
伊藤氏「人材版のクラウンドファンディングです。まず、課題を抱える地方企業からの申し込みを受け付け、私たちが運営する事務局の審査を通過した企業のリーダーに人材募集の原稿を作成してもらいます。事務局と一緒にブラッシュアップした後、サイトに掲載します。ビジネスパーソンからの応募があり次第、面談し、条件が合えば、業務委託契約を結びます。事務局としては、『共感』によるマッチングを重視しています。これまで応募してくださった方のほぼ全員が、金銭ではなく、新しいことへのチャレンジやキャリア形成が目的だと話しています」
――成功事例はありますか。
高橋氏「宮城県女川町のある企業は、通常のルートで経営コンサルタントに経営相談をすると、『これが正しい型です』と決まった解決策を示し、『実行するかどうかは企業側の勝手ですよ』というスタンスの人しかいない、と不満を感じていました。YOSOMON!サービスを通じて、同社と、大手人材紹介会社で地域課題を解決するプロジェクトの企画・提案を担当するAさん(30代男性)、フリーの人材コンサルタントのBさん(40代女性)のマッチングに成功し、業務委託契約を結びました。スタート時に現地でミーティングを開き、その後は遠隔で業務を推進しています」
――地方企業が求めるような、専門知識やスキルがある人材には限りがありませんか。
高橋氏「例えば、経理を20年担当してきた方が、地方企業に助言するような事例はありえるでしょう。シニア層への広がりも期待できます」
伊藤氏「むしろ、受け入れ側の地方企業をもっと開拓しなければならないと思っています」
――副業の解禁にはなお慎重な企業も多いですが、今後の見通しは。
高橋氏「大企業の間でも、副業なのか研修なのか迷いはありつつも、社外に人を出したいという声は高まっています。副業や兼業を認めない企業には人材が集まらなくなるでしょう。日本企業は横を気にして動く傾向があるので、代表的な企業が解禁すれば、副業を認める動きも一気に広がる可能性があります」
(編集委員 前田裕之)
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