副業は西村さんに様々なメリットをもたらした。ブログの評判が社内外で広がり、法人営業の顧客から名前を覚えられるようになった。さらに社内の新規事業を担当する役員から声をかけられ、入社3年目で念願だった新規事業の部署に異動することができた。

「副業が本業に支障をきたすと批判する人もいますが、2つの仕事を掛け合わせ、本業にも相乗効果をもたらすことができます」という持論は実体験に基づくものだ。単なるサイドビジネスや小遣い稼ぎではない副業のやり方を西村さんは「スパイラルキャリア(複業)」と呼ぶ。

仕事も育児も「二兎を追う」

普段は自宅の八王子市周辺で働く(写真は東京都多摩市のシェアオフィス「コワーキングCoCoプレイス」)

こうした自身の経験から、西村さんは「二兎を追って、二兎を得られる世の中を実現する」ために入社5年目で起業した。「このままだと一流の企画マンにはなれないぞ」という元上司の一言がきっかけだった。

「今思えば『もっとがむしゃらになれ』という、上司の“愛のむち”だったのですが、そのときは見返してやりたい一心でしたね。でも出世頭のその人には、社内で頑張るだけでは追いつけない。それなら土俵を変えようと、半ば勢いでツイッターに『ちくしょう、起業してやる!』って投稿しました(笑)」

社名は「二兎」の意味をこめてHARES(野ウサギの複数形)。副業に関心のある個人向けにオンライン上でサロンを主宰し、多様な働き方を実践している人たちへのインタビューや対談などの情報を発信するほか、会員同士のオフ会など交流イベントも実施している。また法人向けには副業を解禁する際の社内コミュニケーションの方法などのコンサルティングを請け負う。当初はリクルートキャリアは辞めず、自分を「商品化」することから始めた。

サラリーマンと起業家という二足のわらじを1年間ほど続けていた西村さんだが、3人目の子供となる長女の誕生をきっかけに、自分の働き方を見つめ直した。同僚より早く帰宅していたといっても、朝9時から夜7時頃まで働き、平日に娘と関われる時間はほとんどなかった。

「おそらくこれが最後の子供かなと考えたときに、初めての娘ということもあり、この先、自分の人生にもし後悔があるとしたら、娘と過ごす時間がとれなかったことになるのかなと、ふと思ったんです」

その頃にはHARESの事業も軌道に乗り、リクルートキャリアの仕事とHARESの仕事に割く時間の割合は9:1でも、収入は同じぐらいになっていた。28歳の誕生日、西村さんは辞表を提出した。自分の中で「育休的独立」と位置づけ、仕事と家庭という二兎を選んだ。

起業後は週休3日で八王子市の自宅周辺で仕事をするスタイル。都心で打ち合わせがあっても遅くとも夕方4時頃に設定して、6時には家に帰れるようにしていた。「娘と過ごす時間が倍以上に増えました。娘はすっかりパパっ子です」と笑う。

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まだ課題の多い副業
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