はしか防御策はワクチンのみ 予防接種は2回受ける
2018年3月、沖縄県を皮切りに、愛知県や福岡県などで、はしか(麻疹)の患者が見つかった。はしかを発症した状態で入国した台湾からの旅行者に端を発し、沖縄県では99人がはしかを発症した(6月11日終息宣言)。
はしかに詳しい国立感染症研究所感染症疫学センター第三室の多屋馨子室長は「はしかは接触や飛沫による感染に加え、空気感染することが特徴。全員がはしかに対する免疫がない集団では、1人の患者が、平均12~18人に感染を広げると言われている。飛沫感染するインフルエンザと比べても、はしかの感染力は極めて強い」と話す。患者が増えた要因は、海外への旅行者や海外からの旅行者によって、免疫がない、あるいは不十分だった人たちの間でウイルスが広がったことにある。
はしかに有効な抗ウイルス薬はないため、発症すると脳炎や肺炎の合併症で死に至るケースもある。妊婦が感染すれば、流産や早産を招く可能性もある。マスクや手洗いに予防効果はなく、唯一有効な自衛手段はワクチンを2回接種することだ。
現在、1歳以上の子どもは小学校入学までに定期接種を2回受けられるが、これは06年に始まった措置。18年4月1日時点で28歳~45歳6カ月の人は麻疹ワクチンを1回しか受けていないため、「母子健康手帳に1歳以上で2回の接種記録がなく、これまでにはしかにかかったことがない人は、免疫が不十分の可能性がある」(多屋室長)。実際に18年に発症した人は20~30代がほかの年代よりも多い。
「はしかの流行がニュースになると、"駆け込み接種"を希望する人が増えるが、本当に必要な流行地でのワクチンが不足してしまう」と多屋室長。流行が沈静化したときに、母子健康手帳で接種歴を確認し、必要回数を受けていない場合は予防接種を受けるのがいいという。また、海外旅行の予定がある人はあらかじめ確認しておこう。
感染すると、10~12日の潜伏期間ののち、38℃台の発熱、せきなどの症状が4~5日続く。この期間をカタル期と呼び、感染力が最も強い。「症状からはしかが心配される場合は、まず保健所あるいは医療機関へ電話し、受診の方法を尋ねて」と多屋室長はアドバイスする。
国立感染症研究所感染症疫学センター第三室室長。小児科医。1986年高知医科大学(現・高知大学医学部)卒。2001年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官。02年から同センター第三室(予防接種室)室長。13年から現職。予防接種で予防可能な病気を研究する。
(ライター 内藤綾子)
[日経ヘルス2018年8月号の記事を再構成]
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