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5300年前の「アイスマン」 最後の晩餐がついに判明

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/7/28

ナショナルジオグラフィック日本版

アイスマン(愛称エッツィ)の最後の食事となった動植物の正確な種を突き止めようと、彼の胃から内容物のサンプルを取る研究者たち(PHOTOGRAPH COURTESY SOUTH TYROL ARCHAEOLOGY MUSEUM, EURAC/M.SAMADELLI)

アイスマン――1991年にエッツタール・アルプスの氷河で見つかった「エッツィ」と呼ばれる5300年前のミイラのことだ。これまでアイスマンが山に入ったのは、追っ手から逃れるためだという説が有力だったが、学術誌「カレントバイオロジー」2018年7月12日号に、アイスマンは食料の準備をして自ら山に入ったことを伺わせる論文が掲載された。

論文の内容は、アイスマンの胃の内容物を分析した結果だ。胃には、乾燥させたアイベックスの肉と脂肪、アカシカ、ヒトツブコムギ、シダ類が、残っていた。発見から30年近く、これまで胃の内容物分析されていなかったのは、ミイラの胃がどこにあるのか分からなかったためだという。

■これまで髪や結腸の内容物で食べ物を推察

90年代終わり、当時の技術ではエッツィの胃が見つからなかったため、研究者たちはエッツィの毛髪の窒素同位体を調べることで、食生活を知ろうと考えていた。そこで得られた見解は、アイスマンはベジタリアンだったというものだ。後年、結腸の内容物が分析され、エッツィは雑食だったと指摘された。また、死ぬ前の1日に、穀物だけでなく、アカシカとヤギの肉も食べていたことがわかったのだ。

最新の研究で科学者たちが試みたのは、アイスマンの最後の食事を正確に突き止めることだった。そのためには、胃を見つけ、胃の内容物のサンプルを取る必要があった。

本来の場所にない胃を見つけるため、研究チームはエッツィの胆石を調べた。胆石は胆のうに形成されるが、それは肝臓の下、胃の近くにある。X線画像に写った胆石から周囲の器官の位置も推定することで、ようやく胃を発見した。

しかし、難題は続く。アイスマンは、微生物から守るためにマイナス6度という低温に保たれている。その胃から内容物を採取するには、まず解凍しなければならない。チームは内視鏡を使って、胃と腸から黄褐色の物質を11個採取した。

腸内の残留物が消化されていて特定が難しい一方、胃の残留物はもろいものの、フリーズドライのような状態だったと、論文著者のフランク・マイクスナー氏は説明する。「本当に、見た目からして興味深いものでした」と話す。同氏は、イタリア、ボルツァーノにあるミイラ・アイスマン研究所の微生物学者だ。

研究チームは、まず胃の内容物を拡大してのぞき込んだ。「雑食生活だったことは、顕微鏡を見てすぐにわかりました」とマイクスナー氏は言う。サンプルには植物や肉の未消化の繊維の小片が見え、雲のようにぼんやりと見える脂肪に包まれていた。その後、チームはDNA、タンパク質、脂質、代謝産物など多くの検査に取りかかった。

■アイスマンが最後に食べたもの

脂質とタンパク質分析から、エッツィがアイベックス(アルプスに生息するヤギ科の動物)の肉だけでなく脂肪も食べていたことがわかった。胃の内容物が高脂肪だったのは、エネルギーを大量に消費する山歩きを支えるためだったのだろう。「アイベックスの脂肪はひどい味だと思いますよ」と、マイクスナー氏は冗談を言った。

不思議な点もあった。DNA分析ではアカシカも食事の一部と考えられたが、シカのどの部位を食べたのか、研究者たちは特定できなかった。可能性があるのは、脾臓、肝臓、脳などだ。「この特定はかなり困難です」とマイクスナー氏は言う。

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