何事もその場しのぎの自分が心配です
著述家、湯山玲子さん

何事もその場しのぎでごまかしがちな性格で、全体や長期展望などを読んだり、計画したりすることが苦手です。これからの長い人生、こんなことでいいのか心配です。(福岡県・女性・50代)
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何事もその場しのぎでごまかしがちな性格、と、ご自身を卑下していらっしゃいますが、とんでもない! 変化していく周囲の状況に対して(その場)、その都度、臨機応変に適応している(しのいでいる)わけですから、それはそれで生きる技術にたけている、とも言えるのです。といいますか、日本人の多くは「その場しのぎ」という性質を色濃く持っている、と私は常々思うのです。夏は猛暑、冬は厳寒、四季がはっきりしており、地震や台風などの天災も多い土地に住む我々は、予測できず、人間の力ではどうにもならない環境を受け入れ、柔軟に対応できる強さを育んできたのです。
実際、私自身も「その場しのぎ」スキルは高い方。今現在の自分の状況は、若い頃からの周到な計画通りというのではなく、目の前の仕事やチャンスをこなしてきたらこうなったという体たらく。ただ、50歳も半ばを越えてから、少々考え方が変わりました。老境や死がリアリティーを持つがゆえに、人生の限られた時間に何をするか、またはしないか、ということ、つまり長期展望を持つ必要を感じるようになったからです。
現在私は、筋力トレーニングに定期的に通っていますが、これはまさに長期展望ありきの行動。年末に行ったドイツで美術館巡りの末、石畳の路上で派手に転んでしまい膝を強打。その転び方が若い時分とは違っていて、「もし、このまま運動もなにもせずいたならば、10年後にこういった海外旅行はかなりしんどいものになっているだろう」と切実に思ったからです。
お金も時間も体力も限られている、という現実。そんな中では、「みんながやるから自分もする」といった行動はセーブすることが望ましい。たとえば、お付き合いでそんなに楽しくもない温泉旅行を年に数回行くのだったら、そのお金で映画で見て憧れたインドのパンゴン湖に行く計画を立ててみてもいい。
今までと違って、「付き合いが悪い」タイプになっていくのだと思いますが、それでいいのです。「お付き合い」でなんとなく思考停止でもって過ごす時間の積み重ねの後にあるのは、「身体が動くときにもっといろいろとやっておけばよかった」という後悔。現代社会は、たくさんの「心地よい暇つぶし」にあふれているので、そのわなにかからず、自分の願望と向き合うことが大事なのだと思うのです。
[NIKKEIプラス1 2018年7月21日付]
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