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うまいペペロンチーノを作りたい 書斎派求道者の挑戦男のパスタ道(1)

「たかがパスタに対して、そこまですることないんじゃない?」

ここまで読んだだけで、そう感じた人がいるかもしれない。

実際、身近なところでもあきれられた。「いまパスタをゆでてるから無理!」と誘いを断った友人たち、仕事依頼を断った仕事相手にも。キッチンを夫に占領されたうえ、和食好きなのにパスタを食わされつづけた妻にも。

実はそんな声は、自分の心の中からも聞こえていた。特にニンニクを炒めたあとの油を飲んで比較する実験や、唐辛子の果皮や種の試食は、ほとんど苦行だった。実際気分が悪くなり、お腹が痛くなることもあった。しばし布団にうずくまり、それでも、どんな油を選び、唐辛子をどう扱うべきかつらつらと考えていると、

「そんなのどっちも同じよぉ~」

という声が、なぜか料理愛好家・平野レミさんの声色とイントネーションで響いてくるのだ(取材でレミさん宅に一度おじゃましたことは私も自慢である。簡単なのにおいしいレシピ。彼女がまとう雰囲気の明るさ。それでいて一本筋の通った料理に対する考え方。まったく裏表のないおおらかな性格。本当に尊敬している)。

「たしかにどっちでもいいかも……」

そう思いそうになるところをグッとこらえ、前へ突き進むのが求道者たるものの矜持(きょうじ)。いやむしろ自虐的な性格ゆえ、敬愛する平野レミさんに「バカねぇ~」と言ってもらいたくて、とことん突き詰めているのかもしれない。

というわけで、手元に中学・高校の化学の教科書を置いて、デンプンやら脂肪酸やらの分子式と格闘しつつ(本書にもそれに関する記述が少し出てくるが、ド文系の私でも理解できたのでご安心を)、パスタやオリーブオイルの構造や成分、あるいは味を受容する人間の細胞内の様子についてまで調べた。一方、それらの生産法の変遷や受容の歴史、つちかった文化なども勉強した。

こんなふうに、いささか滑稽であるかもしれないが、本書のタイトルである「男のパスタ道」を邁進している自負はある。

本書で検討するパスタ料理は、ペペロンチーノ、ただひとつだ。ペペロンチーノにはパスタの基本のすべてがあると言っていい。ペペロンチーノを極められれば、パスタ料理を理解し、すべてのパスタ料理をおいしく作る基礎ができる。その意味で本書は「パスタ道」の入門編である。

土屋 敦 著 『男のパスタ道』(日本経済新聞出版社、2014年)プロローグ「求道者のパスタ」から
土屋 敦(つちや あつし)
ライター 

1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある

男のパスタ道 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 土屋 敦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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