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ワイン酵母・焼き肉向け… 埼玉・釜屋が挑む新しい酒

ぶらり日本酒蔵めぐり(2)

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NIKKEI STYLE

今年、創業270周年を迎えた酒蔵、釜屋(埼玉県加須市)が変貌しつつある。主力の「力士」以外に続々とブランドを市場に投入している。狙いは地酒ファンを増やすこと。どこの食卓にも当たり前に日本酒がのぼっていた時代、1升瓶換算で100万本以上を生産していた蔵が、「わざわざ選んでもらえる酒」造りに挑む。

釜屋は埼玉県北東部の、利根川と荒川に挟まれた穀倉地帯で酒を醸してきた。宅地開発が進んだ今でも、加須市内のところどころで水田が広がる。食用米の産地として県内有数の加須市で酒米生産の取り組みが始まったのは5年前のこと。今年6月には10人余りの生産者が酒米を田植えした。

生産する品種は昨年、埼玉県の産地品種銘柄とされた「五百万石」が中心。銘柄指定を目指す「山田錦」と、埼玉県が開発した「さけ武蔵」も栽培する。今年は作付けを大幅に増やしたという。酒米を生産する機運が地元で盛り上がってきたのに呼応してできたのが、販売中の「純米吟醸 加須の舞」だ。

2017~18年の仕込み(平成29酒造年度)から原料米を100%、加須産の五百万石に切り替えた。「地元のコメを地元の蔵が造り地元の酒屋が売る、という形にしたかった」と、社長の小森順一さんは話す。試験醸造をするうちに地元産米への信頼度が高まったようだ。

「次の仕込み(2018~19年)では、原料米は地元産が8割を占めるようになる」という。前年度に比べて、原料米に占める地元産米の比率は倍増し、「加須の舞」以外の銘柄にも使用が広がる。

このところ、釜屋の商品ラインアップには毎年のように新顔が登場している。今年から加わった「一九九四年醸造 特別本醸造 釜屋」は24年間、常温のままタンク内で熟成した古酒だ。数種類ある古酒を毎年、社内でテイスティングする中で商品化が決まった。

容量は200ミリリットルと少なく、ラベルは金色に輝く。「贈答需要を狙った」と小森さん。日本酒の古酒への関心は一部で高まり、酒蔵がヒット商品を狙う分野の一つとなっている。ただ、独特の匂いやえぐみをあえて強調する、個性的な酒が少なくない。小森さんは「クセが強いという、古酒に対してできつつある固定観念とは違うものを出したかった」と強調する。

薄い琥珀(こはく)色だが、口にすると軽快に感じる。まろやかな風味で深い熟成を感じさせるが、飲む者を拒絶する嫌みはない。スモークチーズやナッツ類はもちろん、白カビチーズも合いそう。食後酒としてのポテンシャルを感じさせる。日本酒を楽しむシーンを広げそうな酒だ。

蔵が200年以上にわたって守ってきた看板ブランドの「力士」とは別に、次々と新ブランドを打ち出すのはなぜか。小森さんは「普段は日本酒を選ばない層にも飲んでもらいたいから」と狙いを話す。「オール地元産」の酒造りには情報発信力を高めるもくろみがある。埼玉県内向けが出荷の7割を占める釜屋にとって、県内のマーケットにもまだ地酒ファンを開拓する余地がある。

埼玉県川越市の蔵造りの町並みの近くに「小江戸蔵里」という観光施設がある。県内35蔵の主要銘柄を飲み比べできる。そこで人気を博している銘柄の一つに「ARROZ(アロス)」がある。ワイン酵母で仕込んだ純米酒で、釜屋が5年前に発売した。生産量は年々増え、初年度の4倍近くに達しているという。ワイン酵母仕込みの酒は増えてはいるが、ARROZの製法は秘中の秘。製法のヒントすら知られたくないという理由で特許出願も見送っている。

川越市には県外、海外を含め年間660万人余りの観光客が訪れるだけに、「ARROZは県外でも戦っていける酒」と小森さんは手応えを感じている。白ワイン風の仕立ては女性や外国人にも好評だそうで、これまで日本酒マーケットに存在しなかった層の興味をひく足がかりになる。

都内で数店を展開する飲食店とのコラボ企画商品もある。純米にごり原酒「英雄(ひでお)」で、「焼き肉に合う日本酒」というのがコンセプト。白濁の度合いは強いが甘さは控えめで脂っこい料理にも負けない。濁り酒の飲み方に新しいヒントを与えてくれる。

新規需要の掘り起こしは商品企画にとどまらない。酒販店を通じた待ちの営業だけでなく、イベントなどを通じて消費者の近くに出向く売り方にも力を入れる。スーパーや百貨店での催事に毎週のように参加しているほか、成田国際空港内の免税店では4年前から1~2カ月に1度のペースで試飲販売をしている。「獺祭」や「久保田」といった有名銘柄が主役を張る免税店にあえて分け入り、土産市場の深耕を目指す。

十三代目の蔵元である小森さんは38歳。慶應義塾大学環境情報学部を卒業している。進学時には家業を継ぐと心に決めていたが、醸造の現場よりもIT時代の経営を学ぶ道を選んだ。日本酒を造れば売れる時代の終焉がはっきりと見えていた。

敷地の奥にある資料館の壁には「おおば比呂司 絵コンテ原画展」と題した掲示がある。列車内の中づり広告のために、漫画家で商業デザイナーのおおば比呂司さんが描いた作品が展示されている。「力士」は名の知れたブランドだった。テレビCMを流していた時期もあった。

しかしその隆盛ももはや昔話。全国の清酒の販売数量は2015年までの40年間で3分の1に減った。釜屋の生産量は最盛期の10分の1になり、付加価値の高い酒に生産をシフトした。大量生産・大量販売のマーケティングを経験した酒蔵ほど、市場収縮に対応するエネルギーと工夫がより強く求められる。2014年に社長に就いた小森さんは、同年、杜氏(とうじ=製造責任者)となった松沼宏顕さんともども、大胆な変身を探り続けている。

新商品を次々と発表する裏で、小森さんは「ブランドの再編と販売ルートの検討、つまりチャネル政策の再構築をしたい」と構想を練る。いま製造販売しているブランド数は、梅酒やリキュールも含め、異なる容量のものも数えると100に上るという。「本醸造だけで5ブランドあり、チャネル別に使い分けているというわけでもない。整理したい」

新しいチャネル政策は「地酒ブームの火付け役になり得るようなお店に扱ってもらうこと」だという。客に提供する酒をこだわって選ぶような販売店、料飲店に「うちで厳選した酒を流し、戦ってみたい」と小森さんは力を込める。

ブランド再編とチャネル再構築という大事業に取り組む原動力はどこにあるのだろうか。小森さんは3つの自信を挙げる。まず、地酒ファンのコア層を客に持つ酒屋や料飲店の関係者と話す中で、信頼を勝ち取れる可能性を感じた。

では「厳選した酒」は用意できるのか。社内外で利き酒をするうちに、毎年、評価が高い酒があるのはわかってきた。「地酒ファンをうならせる酒造りはできている」。全国新酒鑑評会でも2016年から3年連続で金賞を受賞している。これが2つ目の自信。ただ、その評価に見合った売り先や売り方を見いだせずにいた。

社員の熱気も後押しした。「最近増えた若手社員の中には、地酒ブームに憧れて入社した人も少なくない。そんな若手の励みになるよう、実力に応じた人気を手に入れたい」。これが3つ目の自信となった。「通」向けのブランドを立ち上げる機は熟したと、小森さんは考えている。

ただ、「通」向けの新ブランドだからといって酒造りのスタンスを変えるつもりはないようだ。「食事と酒がそれぞれよさを引き出し合うような食中酒」が理想という。特別純米や純米吟醸でコストパフォーマンスを評価されるような商品企画を想定している。

鑑評会連続金賞の立役者は杜氏の松沼さんだ。20代前半から酒造りの修業を続け、42歳になった。松沼さんは岩手県の南部杜氏の肩書を持つ。酒造りの技術はもちろん、鑑評会の審査の傾向といった情報の交換は南部杜氏のネットワークに頼ることも多いそうだ。進取のマーケティングと伝承のものづくりを両輪に、270年の伝統をどう発展させるか。挑戦が続く。

釜屋が蔵を構えるのは東武伊勢崎線加須駅南口からバスで約10分の場所。地下水が豊富な地域といわれる。深さ5~6メートルの浅井戸と、200メートル前後の深井戸がそれぞれ数本ずつ、掘ってある。深井戸からくみ上げるのは利根川の伏流水とされ、ミネラル分を適度に含んだ中硬水だという。

(アリシス 長田正)

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